サケ科のオスの顔が『いかつい』理由 繁殖期は口と歯が武器化する?

サケ科のオスの顔が『いかつい』理由 繁殖期は口と歯が武器化する?

魚に関するアレコレについて情報発信する「サカナ研究所」。今日も新人研究員である近藤が、サカナ研究所所長である藤村さんにいろいろと聞いてきました。今回は、秋の旬魚でもある「サケ」について不思議に思っていたことを少し教えてもらいました。

(アイキャッチ画像出典:PhotoAC)

TSURINEWS編集部 TSURINEWS編集部

その他 サカナ研究所

サケの顔が厳つくなるのはオスだけ?

近藤

朝晩が涼しくなり、これから秋が深まっていくわけですが、秋といえばやっぱり『サケ』ですよね!実はサケのことで以前からずっと気になっていたことがありまして。

藤村所長

サケやマスは個人的にもすごく好きだから大歓迎。それなりに語れるよ!

近藤

サケって他の魚に比べてすごく顔がこわい?厳(いか)つい?じゃないですか。 あれってどうしてなんですかね?

藤村所長

たしかに、厳つい顔をしてるけど、実はあの顔って産まれた時から恐いわけではないんだ。ある時期を境に少しずつ顔が変化していくんだ。

近藤

ある時期ですか?

藤村所長

そう。 その時期というのは、実は「産卵期(繁殖期)」なんだ。産卵期に入ると一部のサケ科の魚は顔が恐く、厳つくなっていく。 ちなみに、より一層顔が厳つくなるのは、オスとメスのどちらだと思う?

近藤

んー、実際に産卵をするメスの方ですかね…?

藤村所長

残念(笑) 顔が厳つくなっていくのは実はオスの方なんだよ。

顔が厳つくなる理由とは?

近藤

それは知りませんでした! なぜオスの顔は厳つくなるんですか?

藤村所長

厳つくなる理由の前に、サケの食事についてまず説明しようか。 実はサケたちは産卵のために川を遡上する頃には摂餌行動、つまり食事をしなくなるんだよ。

近藤

え、ご飯を食べないんですか? それで生きていけるんですか?

藤村所長

サケは遡上する前に海でたくさんエサを食べて、エネルギー満タンの状態になってから遡上を始める。でも川に入ると消化器官はほとんど機能を失ってしまい絶食となるから、なかにはエネルギー不足の弱った個体も出てきて、そうした個体は脱落していくことになる。 ちなみに、秋にサケが旬を迎えると言われているのは、遡上をする前はエネルギー満タンで、お腹には卵巣や精巣がはちきれんばかりに入っていて食べるところが多いのが主な理由だけど、川に遡上する時は岸近くを回遊してきて取りやすくなるという、人の都合による要素もあるよ。

近藤

秋のサケっておいしいですもんね~ 焼くのはもちろん、ご飯と一緒に炊き込むのも最高だし、お酒も合い……すみません話が脱線しました…。 でも、ご飯を食べなくなることと、顔が厳つくなることにどういった関係があるんですか?

藤村所長

サケはエサを食べなくなることで、口を使う必要がなくなる。 そして、使われなくなった口は、次第に武器化していくんだよ。

近藤

え、武器化!?ちょっと予想外でした…! 誰と戦うための武器ですか?

サケ科のオスの顔が『いかつい』理由 繁殖期は口と歯が武器化する?武器化する口と歯(画像出典:PhotoAC)
藤村所長

それはもちろん他のオス。子孫を残すというのは命をかけた戦いだからね。 メスのサケは産卵のために「産卵床」という卵を産むための場所を作る。そして産卵床にいる1匹のメスを奪い合うために、オスのサケは口や歯を武器にして戦う。体が大きかったり、口が大きかったりすると、それだけで戦いが有利になる。基本は強いオスがメスを奪い取る、強者生存の世界なんだ。 サケ同士の戦いはかなり激しいから、時にはかなりの痛手を被ることもある。なので、攻撃を防ぐために皮膚も分厚くなる。そして攻撃されやすい頭の後ろは大きく肥大する 体の構造を変化させて、攻撃力と防御力を高めているわけだね。 簡単に言うと、ポケモンの進化みたいな感じかな。

スニーカーと呼ばれるオスもいる?

近藤

子孫を残すってすごい大変なんですね…。 ちなみに戦いに敗れたオスはどうなるんですか?

藤村所長

戦いに勝てなかった弱いオスは、次のメスを探すためにまた泳ぎ回る。そして、またメスを巡って他のオスと戦うんだ。 なかには自分が弱い個体ということを知ってか、産卵途中のカップルに割り込んで産卵行動に参加するスニーカーと呼ばれるしたたかなオスもいるけど。 どちらにしろこれは「サケ」という種が、できるだけ強い遺伝子だけを残し、後世まで強い種として生きていくための戦略とも言えるね。

サケ科のオスの顔が『いかつい』理由 繁殖期は口と歯が武器化する?激しく噛み合うことも(画像出典:PhotoAC)

メスのサケは喧嘩するの?

近藤

一匹ずつの繁殖としてではなく、「サケ」という種を強く後世まで生き続けさせるための戦略なんですね。ちなみにメス同士も喧嘩をするんですか?

藤村所長

もちろんあるよ。ただ、オスほど激しい戦いにはならない。 メス同士の戦いは、ほぼ同じ力関係(大きさが同じくらい)で、産卵場所が重なってしまった場合などに起こる。 それから、メスより明らかに小さく弱者とみられるオスは、時にはメスから追われることもあるよ。 基本的にメスが争うのは、自分の産卵床に他の魚が侵入してきた場合が多い。だから、オスほど争う機会が少なく、メスは産卵期になってもそこまで顔が厳つくなることはあまりないみたいだよ。

近藤

か弱いオスはメスにも追われてしまうのか…。 体が小さいというのは自然界において、非常に不利ってことなんですね。 人間の世界でも、背が高かったり、イケメンだと女性からモテますもんね…。 実は魚の世界も、人間の世界もあまり変わらないのかもしれませんね。

藤村所長

人間の場合は、見た目だけではなくて性格とか他のことでもアピールできるけど、サカナの世界は非常にシビアだよね。サケの産卵については、もっとシビアなことがあるから、もっともっと語りたいのだけど、時間は大丈夫?あと数時間は語れるけど。

近藤

(あと数時間……) い…いや、今日のところはここまでで結構です!!

藤村所長

あ、いいの?そしたらまた今度ね。

近藤

(良かった…) ありがとうございました!

<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>