我が国で用いられている「和名」の中には、全く違う生き物なのに同じ名前がついている「同名異種」というものがいくつもあります。中でもしばしば混乱を招く「魚と植物の同名異種」について注目してみました。
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植物の名前がつく魚
調べ物などで生物に関する文献を呼んでいると、しばしば「それ魚?それとも植物?」となる表現にあたることがあります。その例のひとつが「ヒイラギ」です。
ある程度魚のことを知っている方ならご存知かと思いますが、ヒイラギという名前は「沿岸性の小魚」を指す場合と「庭木の一つとしてメジャーな木」を指す場合があります。
また同様の例に「ゴンズイ」があります。こちらは「毒棘を持つことで知られる魚」と「夏から秋にかけて真っ赤な味を鈴なりにつける山の木」とどちらかとなります。
この2例については、前者は植物のほうが、後者は魚のほうが知名度が高いものとなっており、とくに注釈のない場合はそちらを指すものと理解して読み進めれば概ね問題ありません。
意外とたくさんある「同名異種」
このヒイラギやゴンズイのように、生物のグループをまたがって同じ種名が複数の種類につけられているという場合が少なからずあります。このようなものを専門用語で「ホモニム」と呼び、日本語では「同名異種」と訳されています。
和名の同名異種には数多の例があり、魚と植物だけに限っても10種類以上が知られています。判別に困らないのかなと思うこともありますが、一般的な知名度から考えれば、双方が有名なために間違われてしまいかねないものは「サワラ(鰆/椹)」くらいなので問題はないのでしょう。
名付けの順序
さて、生物好きとして、このようなもので気になるのは「どちらが先に名付けられたのか」ということです。
例えばヒイラギは、魚のヒイラギも植物のヒイラギも「柊」という字が当てられています。この漢字が植物を表す木偏であることからも、命名されたのは植物が先だとわかります。実際、ヒイラギ(魚)の尖った鰭をヒイラギ(植物)の葉の棘になぞらえたのが命名理由だと考えられています。
意外なところでは、ブドウの仲間の「エビヅル」は、甲殻類のエビよりも先に名付けられています。古くはブドウのことをエビと呼んでおり、ブドウから取れる色を葡萄色(えびいろ)と呼んだのです。加熱したエビ(甲殻類)が葡萄色に染まる様子から、こちらも「えび」と呼ぶようになったのだそうです。
逆に魚が先と思われるものでは、上記の「ゴンズイ」があります。樹木のゴンズイは材としても庭木としても二級品扱いでさほど役に立たないため、有毒で利用価値が低いと思われがちなゴンズイに例えたのだといわれています。
というわけで植物と魚の同名異種についていくつかご紹介しましたが、より調べていくと色々面白いエピソードが見つかるかもしれませんね。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>