カキ(牡蠣)養殖は食卓だけでなく水中の生態系にとっても重要な存在 

カキ(牡蠣)養殖は食卓だけでなく水中の生態系にとっても重要な存在 

広島の名産品として知られる養殖カキ。実は食卓だけでなく、海の中でも非常に重要な存在なんです。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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その他 サカナ研究所

カキ筏が育む「ハゲ」とは?

瀬戸内地域の中心都市・広島。瀬戸内海に面し海の幸に恵まれたこの街で、この時期とても珍重される魚がいます。

当地で「ハゲ」という不穏な名前で呼ばれているこの魚は「ウマズラハギ」。カワハギの仲間で「ハギ」がなまって「ハゲ」と呼ばれています。ウマヅラハギは全国に生息する一般的な魚ですが、広島近海のものはとくに美味しいと言われています。

カキ(牡蠣)養殖は食卓だけでなく水中の生態系にとっても重要な存在 ウマヅラハギ(提供:PhotoAC)

広島のウマヅラハギが美味しいとされる理由は「カキ筏の下で育つ」から。カキの養殖を行うカキ筏の下は、ウマヅラハギの餌となるゴカイやカニのような小動物が非常に豊富で、そこで育つウマヅラハギは非常に大きく、また最大の魅力である「肝」もよく肥えているのです。当地の漁師は「よその産地ではここまでのハゲは獲れない」と太鼓判を押しています。

カキ筏ってなに?

カキ筏は、広島などで盛んな「筏式垂下法」というカキの養殖法において用いられるもの。

この方法ではまず、ホタテガイの殻を海中に沈めておき、遊泳するカキの幼生を付着させて捕獲します。その後、カキがついたホタテガイを干満差のある場所でしばらく栽培し、環境変化への抵抗性をつけさせます。

カキ(牡蠣)養殖は食卓だけでなく水中の生態系にとっても重要な存在 カキ養殖に使うホタテガイの殻(提供:PhotoAC)

それから今度は、カキの稚貝のついたホタテガイの殻を、針金に通して海中にぶら下げておきます。これが「垂下法」の名前の理由です。海中にぶら下げる針金の長さはなんと9mにもなります。

暑い時期は海中深い場所に、それ以外の時期は海面近くのプランクトンの多い場所に吊っておくことで、大きく成長させる事が可能になるのだそうです。

生態系維持に貢献するワケ

海面からぶら下がるカキ筏は、なにもない海中に複雑な環境変化をもたらす存在です。カキ筏の影やカキ同士の狭い隙間は小魚の産卵場所になり、また餌となる小動物も豊富であるため、様々な魚が棲み着きます。

魚だけでなく、高い海水浄化能力をもつナマコも、幼体の間はカキ筏に付着して生活していることがわかっています。夏の間はカキ筏とともに深く水温の低い場所で夏を越し、水温が下がるとカキ筏から海底に降りて単独生活を行うそうです。

カキ(牡蠣)養殖は食卓だけでなく水中の生態系にとっても重要な存在 広島湾のカキ筏(提供:PhotoAC)

これらの要素に加え、カキ自体が極めて高い浄化能力を持っています。海水濾過機能、小魚や小動物のゆりかご、生態系の場の提供といったメリットを持つカキ筏の存在は、瀬戸内海の環境保全に貢献するものだと言っても過言ではないでしょう。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>