他の魚の鱗を剥がして食べるという、一見するとおどろおどろしさを感じる生態の魚がいます。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
他魚の鱗を食べる魚
いま、アフリカの「タンガニーカ湖」という湖に棲む、とある魚に注目が集まっています。その魚は「Perissodus microlepis」という種で、和名はないのですが通称「鱗食魚」と呼ばれています。
その名の通り、この魚には他の魚の鱗を食べるという性質があります。そして更に特徴的なことに、鱗を食べるとき、右側から襲う個体と左側から襲う個体がいます。
この魚が注目されている理由は、先日実施された「とある実験」のため。というのは、この魚の「右利き・左利き」は生まれつき持っている性質ではなく、成長と経験に伴い体得されていることが実験により判明したのです。
この魚を研究することで、我々ヒトも含めた動物たちの「利き」に関して、神経の発達と制御システムの関係を解明することにつながるのではないかと期待されているのです。
鱗食する魚たち
現在はこの「Perissodus microlepis」が暫定的に鱗食魚と呼ばれているのですが、実は「他魚の鱗を食べる」性質を持つ魚は他にも存在します。
Perissodus microlepisは、日本で「イズミダイ」として知られるティラピアと同じグループであるスズキ目カワスズメ科の魚ですが、同じスズキ目のアジ科や、ナマズ目など様々なグループで確認されています。
また、鱗食性の魚は淡水・海水を問わず存在しています。特に有名なのがクロスジギンポという魚で、大型魚の体表の寄生虫を食べ「掃除」することで知られているホンソメワケベラに擬態しているユニークな魚です。彼らは掃除をするふりして大型魚に近寄り、そのまま鱗を食べてしまうという習性を持っています。
なぜ鱗を食べるの?
鱗食性のある魚の多くは、貧栄養な環境に生息しているという特徴を持っています。周囲に餌が少ないため、通常餌とならない「他魚の鱗」を剥ぎ取って食べる性質を得たと考えられています。
鱗食性の魚は鱗を消化する機構を持っており、口や運動性なども、鱗食行動に合わせて進化・発達させたと見られています。
そしてこの鱗食性と似たような性質として「鰭食性」をもつ魚も報告されています。「鱗食魚」が生息するタンガニーカ湖から数百km離れた「マラウィ湖」に生息する、やはりカワスズメ科の一種「Genyochromis mento」がそれです。
面白いことに、このGenyochromis mentoにも「利き」があることが確認されており、他魚の一部をかじり取る性質の魚には「利き」が存在する可能性が帰納的に示唆されています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>