「出汁」がユニークな雑煮たち ハゼにスルメにまさかのクジラまで?

「出汁」がユニークな雑煮たち ハゼにスルメにまさかのクジラまで?

おせちの2大要素といえば「餅」と「出汁」。前者に関しては形状と加熱方法、中身の有無くらいの違いしかありませんが、後者は地域によっては本当にマニアックなものがあります。

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お雑煮の出汁

あまたある日本の伝統的な料理の中でも、もっともその地域性が出ると言われるのがお雑煮。そしてお雑煮について語られるとき、最も注目されるのは「餅の形」と「汁の味」でしょう。

「出汁」がユニークな雑煮たち ハゼにスルメにまさかのクジラまで?雑煮の命は出汁と餅(提供:PhotoAC)

餅は概ね西日本が丸餅、東日本が角餅で、地域によっては中にあんこを入れたりきなこやタレを付けたりするところがありますが、そのほかは焼くか茹でるか……といったところで、あまり多様性があるわけではありません。

一方で「汁」は出汁の味から調味料まで様々な種類があり、体系立てるのも困難なほど多様です。日常的には煮干し出汁を使う地域でも、ハレの日である正月はカツオ出汁を使うといった例もあり、「西日本は〇〇!」みたいなグルーピングをすることは難しいといえるでしょう。

「魚の出汁」で作る雑煮

そんなお雑煮の出汁ですが、あえて体系立てるとすれば、やはり「鰹」と「昆布」が二大出汁食材と言えるかと思います。ただし少しでも細かく見ていこうとすれば、すぐにそんな単純なものではないと思い知らされることは必至。ちょっと変わった食材で出汁を取る地域もたくさんあります。

「出汁」がユニークな雑煮たち ハゼにスルメにまさかのクジラまで?トビウオは優秀な出汁素材(提供:PhotoAC)

そのようなマイナーな出し職剤の中で、比較的有名なものにアゴ(トビウオ)の出汁があります。アゴ出汁は北部九州から北陸にかけてよく用いられており、煮干しより上品でさっぱりした味わいが特徴です。

また仙台など「ハゼ」を使って出汁をとる地域もあります。20cmを遥かに超す巨大なハゼの焼干しが用いられ、そのまま雑煮の具として供する場合もあります。

マニアックな「出汁の素」

雑煮の出汁をミクロに分けていくと、さらにユニークなものが見つかります。

例えば、古くから捕鯨が盛んだった岩手~宮城の三陸地方には「クジラの出汁」で作られる雑煮があります。クジラの皮下脂肪を塩漬けにしたものが利用されており、適度な塩気と強い旨味、脂身のコクが魅力になっています。

「出汁」がユニークな雑煮たち ハゼにスルメにまさかのクジラまで?クジラの脂身からは良い出汁が出る(提供:茸本朗)

ほかにも、福岡県中南部の山間部では、古くから「スルメ」が雑煮の出汁に用いられてきました。冷蔵技術のなかった時代、山間部において貴重な魚介食材出会ったスルメ。ハレの日の食べ物である雑煮に、その出汁を用いたのは自然なことと言えるかもしれません。

ほかにも福島の貝柱出汁の雑煮、秋田の焼干しアジ出汁の雑煮など、例を上げるとキリがありません。この様なユニークな出汁で雑煮を作る地域に、一度は訪れてみたいものですね。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>