愛知県で、高級魚であるトラフグの漁を邪魔する「別のフグ」の存在が問題となっています。釣り人的には厄介でお馴染みのあのサカナです。
(アイキャッチ画像提供:週刊つりニュース編集部)
ブランド魚・トラフグ
冬に美味しくなる魚といえば……タラ、ブリなど様々な意見はあると思いますが、一番に連想するのはやっぱりフグではないでしょうか。
全国有数の天然トラフグの産地である愛知県では、需要が最も大きくなる時期に向け、トラフグ漁が盛んになっています。当地のトラフグはほとんどが延縄で獲られるために傷が少なく、700g以下の個体はリリースというルールがあるためサイズが良いという特徴があります。
県もブランド化に力を入れており、愛知の「冬のプライドフィッシュ」にも指定されています。水揚げの多い知多半島やその沖合に浮かぶ離島ではトラフグ料理が名産品となっており、安価に食べられることで人気も高くなっているそうです。(『「愛知のトラフグがピンチ!? “天敵”の正体はまさかの…同じフグ科に属する「サバフグ」 地元漁師「異常だわ」 愛知・南知多町』中京テレビニュース 2021.11.30)
トラフグ漁の「天敵」はフグ?
しかし、そんな愛知のトラフグ漁がいま、ちょっとしたピンチに陥っています。延縄仕掛けが次々と切られ、漁にならなくなってしまう場合も起こっているというのです。
その原因は「サバフグ」というトラフグとは別種のフグです。彼らはあまり大きくならない中型のフグで、浅い場所を群れで泳いでいます。
サバフグは非常に鋭い歯を持っており、トラフグの延縄に食いつくと、そのまま糸を切って逃げてしまうのです。もし糸が切られなくても、サバフグが先に食いつくことでトラフグの漁業機会が減ってしまい、結果として水揚げが減ってしまいます。
毎年サバフグによる漁業被害はあるのですが、今年はとくにその数が多く、関係者を悩ませています。県水産試験場によると、今年の10月時点ですでに、例年の10倍近いサバフグが水揚げされているといいます。
サバフグは水温が低下するにつれて数が減ると見られていますが、ハイシーズンを前に関係者は気をもんでいます。
サバフグも「一工夫」で美味しくなる
そんな迷惑なサバフグですが、実は彼ら自身も重要な食用フグです。しかしフグの中では価格は安く、トラフグとは価値の面では全く比べ物になりません。
安価な理由はサイズの小ささ、そして水っぽさ。身に水分が多く、トラフグなどの高級フグと比べると味が薄いのです。しかし、水分を抜いてあげると味が濃く美味になるため、脱水ペーパーでくるんで一晩おいたり、一夜干しにしてから加工調理すればとても美味しいフグとなります。居酒屋などで食べられる安価なフグの干物や天ぷらの多くは、サバフグです。
ちなみにサバフグの仲間には無毒のシロサバフグ、有毒のクロサバフグ、全身強毒のドクサバフグがおり、互いによく似ているため、素人では区別できないことがあります。加えて近年は雑種の存在も確認されており、シロサバフグを含め素人調理は厳禁です。加工済みのものを購入するのが無難だといえるでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>