ユーモラスな見た目の魚が多いハリセンボンの仲間でもとりわけ可愛らしいイシガキフグ。実は一部地域で人気の食用魚でもあります。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
イシガキフグの人工孵化
世界各地の海に生息するものの、詳しい生態は謎に包まれている魚の一つに「イシガキフグ」があります。このたび、そんなイシガキフグの人工孵化に、東京海洋大の水圏生殖工学研究所が成功し、話題になっています。
研究では最初、20匹以上のイシガキフグを水槽に入れて様子をみましたが、メスが卵を産んでもオスが精子をかけず、残念ながら自然繁殖はかなわなかったそうです。そこで、産卵間近のメスの体内から卵を出し、オスの精子をかける「人工授精」の形を試したところ、約8000匹を孵化させることに成功しました。
その後、今度は凍結保存していた精子でも受精に成功。担当者は「凍結精子でも人工授精できたことは意義深い」と話しているそうです。(『謎多きイシガキフグ、東京海洋大が人工孵化に成功 さかなクンが一役』朝日新聞 2021.11.6)
イシガキフグってどんな魚?
イシガキフグは、フグ目ハリセンボン科に属する中型の海水魚です。通常時の見た目はハリセンボンに似ており、体表は短い棘で覆われています。
フグの仲間であるため膨らむことができますが、しかし膨らんでもハリセンボンのように針を立てるほどには至りません。一方で体長はハリセンボンよりかなり大きく、最大で50cmほどになることもあるようです。
硬い歯を持つものが多いフグ目らしく、イシガキフグも非常に強いくちばし状の歯を持っています。この歯でサザエなどの巻き貝もバリバリと食べてしまうため、ウニやサザエ、甲殻類を餌に用いるイシダイ釣りのゲストで顔を出すこともあるようです。
実は食用に人気の魚
イシガキフグを含むハリセンボン科の魚は、フグ目に属するにも関わらず、フグ毒であるテトロドトキシンを含有しないという特徴を持っています。そのため生息数の多い沖縄などでは食用にされており「あばさー」と呼ばれて人気のある食材となっています。
「あばさー」はやや身が水っぽいものの、加熱すると良い出汁が出ます。当地ではまるごとぶつ切りにして汁物や鍋物にするのが好まれているようです。
一方でフグの仲間ではあるため、法律上「肝臓」や「卵巣」は販売禁止となっており、流通させることはできません。しかしこれはあくまで売ってはいけないと言うだけで、自分で手配したものを食用にするのは現時点では問題ありません。
本州でも、温暖な海域で釣りをしているとたまに「あばさー」類が釣れてきます。これで肝入りの味噌汁を作るのは、ある意味釣り人だけの特権と言えるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>