太平洋クロマグロの漁獲量上限が緩和の見通し 小型魚の制限は変わらず

太平洋クロマグロの漁獲量上限が緩和の見通し 小型魚の制限は変わらず

資源量の減少が叫ばれ、漁獲量が国際的に厳しく制限されてきた太平洋のクロマグロですが、この度その制限が緩和される可能性が高まってきました。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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その他 サカナ研究所

クロマグロ国別漁獲量上限が緩和

「本マグロ」として知られ、我が国において非常に愛されている太平洋クロマグロ。その漁獲量の規制について話し合う国際会議「WCPFC北小委員会」の、先月29日に開催された合同作業部会において、全域での漁獲枠を15%増やす方向で調整が進むことになったと報道されました。

太平洋クロマグロの漁獲量上限が緩和の見通し 小型魚の制限は変わらず解体されるクロマグロ(提供:PhotoAC)

これは日本が提案したもので、オンライン形式による3日間の会合ののち、参加した全6か国・地域が支持しました。

日本の水産庁はこの件について、4年前から漁獲枠を増やすことを提案していましたが、関係国の同意を得られたのは今回が初めてのこととなります。

なぜ日本の提案が通ったのか

太平洋クロマグロは世界的に人気の食材ですが、近年漁獲量の大きな減少が見られたことから、2015年以降、主要水揚げ国家・地域には厳しい漁獲制限が課せられてきました。

この制限では、未成熟な体重30kg未満のクロマグロの漁獲量は半減、それ以上の大型魚の漁獲量も増加させないという形がとられてきました。その規制の効果もあったのか、2010年に約10,800tと過去最低だったクロマグロ親魚の資源量は、2018年に約28,200tまで回復したといいます。

太平洋クロマグロの漁獲量上限が緩和の見通し 小型魚の制限は変わらずクロマグロの価格は高騰していた(提供:PhotoAC)

今回のWCPFC北小委員会作業部会で、日本はクロマグロ資源量の回復傾向が続いているなどとして、漁獲量の上限を緩和するよう提案していました。その結果、大型の個体については15%増やす方向で参加国・地域の意見が一致したそうです。この場合、日本の漁獲枠は732t増えることになります。(『クロマグロ、初の漁獲増枠へ 消費者に朗報、実現へなおハードル』JIJI.com 2021.7.30)

小型魚の漁獲は引き続き制限

太平洋クロマグロの資源量が増えたという事実があったとはいえ、過去に何度も日本の提案が却下されてきた経緯を鑑みると、今回の提案が通る可能性は低いと見られていました。

これが一転して通った理由は、これまで強く反対してきたアメリカが容認したためといわれています。今回の合意では上記の増枠に加え、最大200tの漁業可能枠をアメリカに配分することも決まりました。このことがアメリカの譲歩を引き出すのにつながったと見られるそうです。

太平洋クロマグロの漁獲量上限が緩和の見通し 小型魚の制限は変わらずトロも食べやすくなる?(提供:PhotoAC)

ただし、漁獲枠増加が正式に決定するには、今後計3回の国際会合で合意が必要になります。また今回の会議では、日本が同時に各国・地域に対して要請していた、30kg未満の小型個体の漁獲量増枠は見送られたそうです。

日本では小型のクロマグロも多く漁獲され「メジマグロ」などと呼ばれて食用にされていますが、価値の低い幼個体を巻き網漁などで大量に漁獲することについては度々非難されています。日本を除いて小型魚の漁獲増枠に熱心な国・地域はなく、今回の増枠提案が通る見通しは立っていません。しばらくの間は、よほどのことがない限り増枠されることはないのではないかと思われます。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>