日本本土の最南端の内湾である鹿児島湾で、赤潮警報が発令されました。赤潮というと一般的には「暑い時期に発生する」イメージですが、なぜ2月に発生したのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
鹿児島で2年ぶりに「赤潮警報」
本土最南端の湾であり、南九州の独特なシルエットを構成する要素である鹿児島湾。南北に細長く、さらに最奥部は桜島によって閉鎖性がとても高くなっているというユニークな環境の内湾です。
その鹿児島湾の北端に近いいくつかの区域で、2月末、毒性の強い有害プランクトン「ヘテロシグマ・アカシオ」の大量発生が確認されました。このプランクトンはいわゆる「赤潮」を発生させる種類のもので、今の時期の水温や塩分がこのプランクトンの増殖に適した状態となっており、さらに増殖するおそれがあることから、2月25日には鹿児島湾に「赤潮警報」が発表されています。
鹿児島湾で赤潮警報が発令されるのは2019年以来約2年ぶりのことだといいます。なお、現在までにこのプランクトンによる漁業等の被害の報告は入っていないそうです。(『鹿児島湾に赤潮警報』南日本放送 2021.2.25)
赤潮警報とは
プランクトンの異常増殖により、海などの水域の水が変色する現象が「赤潮」。青い海が赤やオレンジ色に染まり、その見た目が不気味なだけではなく、プランクトンが海中の酸素を消費しきってしまうために酸欠状態となり、あらゆる魚介類に被害が発生します。
そのため、赤潮の発生が予測される場合や、発生が確認された場合には、漁業者等に状況報告や注意喚起をする必要があります。そのために発表されるのが赤潮警報です。各都道府県の水産・漁業担当部局が、漁業協同組合や漁業者等に対して発表する形をとります。
警報が発令されると、漁業者は漁の作業を完了させたり、養殖魚のいけすを赤潮の影響を受けない水域に避難させるなどの対応が求められます。また養殖で使用される飼料がプランクトンの餌になったり、魚が食餌によって疲労し赤潮の影響を強く受けてしまうことがあるので、いけすへの餌やりを控えることも行われます。
なぜこの時期に?
赤潮自体は、現在でも全国各地の内湾で見られる現象です。高度成長期以降、東京や大阪などの大都市に臨する海域では富栄養化が進み、当たり前に発生するようになってしまっています。
しかしその一方で、東京湾や大阪湾などの赤潮の頻発地域では、基本的に赤潮が発生するのは高水温期です。これは、赤潮の原因となるプランクトンの多くが、20℃以上の高水温で盛んに増殖するため。このこともあり、「赤潮=夏に発生するもの」というイメージが強くなっています。
一方、今回鹿児島湾で赤潮を引き起こした「ヘテロシグマ・アカシオ」という種は、水温15~25℃という広い温度帯で増殖することがわかっています。通常、閉鎖的な内湾は外洋と比べ冬の水温が低いものですが、日本最南端の湾である鹿児島湾は2月下旬でも16~17℃ほどの水温があり、ヘテロシグマ・アカシオの適温となってしまうのです。
鹿児島湾の温暖さとプランクトンの性質が「冬の赤潮」を引き起こすのだと言えます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>