「瀬戸内の春告魚」と言われ、伝統料理に欠かせないイカナゴ。ここ数年はひどい不漁が続いていますが、今年の春も残念ながらその傾向に変わりはないようです。
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兵庫県のイカナゴは今期も壊滅的か
兵庫県水産技術センターは8日、昨年12月末に実施した「イカナゴ親魚の捕獲調査」の結果を公表しました。それによると、採取できた個体の数字牌は前年調査時よりわずかに増えたものの、総産卵量の推定は大きく減少し、平年の6%余りにとどまっています。
2020年の調査では、1回当たりの採取数は7.8尾となり、過去最少だった2年前の4.9尾、前年の5.3尾と比べるとわずかに増えていました。しかし、産卵数が多くなる生後2年以上の魚の割合は全体のたった6.5%と、極端な不漁が始まった2017年以前の平均値である20%以上を大きく下回りました。
同センターは「親魚、産卵量ともまだまだ少なく、今年も漁期短縮などの対策が必要だ」との見解を出しています。引き続き播磨灘や大阪湾などで稚魚も調べ、2月中旬には今季の全体としての漁況予報を発表するとのことです。(『イカナゴ産卵調査 推定は平年の6% 今春も不漁か』神戸新聞NEXT 2021.1.8)
壊滅状態が続く瀬戸内海のイカナゴ
瀬戸内海に春を告げる魚として知られるイカナゴですが、しかしここ数年は記録的不漁に見舞われています。それに伴い、漁期の短縮や、漁そのものをほぼ取りやめてしまうことも行われました。
くぎ煮の材料となる新子漁は例年2月末~3月上旬に解禁されますが、17年以降、現在に至るまで例年1カ月余り漁期が短縮されています。昨年は大阪湾で実質2日間、播磨灘でも同5日間で漁が終了となり、過去最短を更新しました。
これに伴い漁獲量も、1970年以降最少となる147tに留まり、2016年の1万1000t台から大きく落ち込んでいます。魚価も年々高騰し、新子は昨年は3800円/kgをつけ、もはや庶民の魚とは言えない状況になっています。
イカナゴは瀬戸内海における生態ピラミッドの根幹をなす生き物でもあり、その減少は瀬戸内海の環境そのものに大きな悪影響をもたらす可能性も懸念されています。
イカナゴ資源が回復しない理由
長引くイカナゴの不漁の原因としては、乱獲を筆頭に、産卵場所の減少、明石海峡大橋建設による潮流の変化、温暖化による水温の増加などといった説が挙げられています。
それぞれの説に基づき、上記のように網を入れる日を減らしたり、産卵期の個体を捕らないように配慮したりして対策が行われていますが、現状では効果が上がっているとは言えない状況です。
最近では「瀬戸内海の海水中の栄養が少なくなりすぎているから」という説も出てきています。下水処理技術が向上し、処理水中の窒素濃度が低くなった結果、瀬戸内海の栄養塩が減少し、イカナゴの餌となるプランクトンが減少しているというのがその趣旨です。これに基づき、下水処理水を「きれいにしすぎない」試みも実施され始めています。(『水質改善しすぎて不漁 全国初、県が窒素濃度に下限』ひょうご経済+ 2019.6.3)
様々な対策を並行して行うことで、一刻も早いイカナゴ生息数の回復に繋がり、そしてまたその美味を気軽に味わえる日が来ることを心から祈っています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>