馴染深い淡水魚「ニジマス」は実は侵略的外来種 功績あれば悪影響も

馴染深い淡水魚「ニジマス」は実は侵略的外来種 功績あれば悪影響も

誰もが知る淡水食用魚・ニジマス。「釣り堀で釣ったことがある」という人も多く馴染み深い魚ですが、日本においては問題視される「外来魚」でもあります。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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ニジマスは重要な水産物

ニジマスという魚の名前を知らないという人は、日本にはあまりいないのではないかと思います。全国各地で養殖されており、淡水魚ではコイ・アユと比肩する知名度をもつ淡水魚です。またいわゆる「釣り堀」などの管理釣り場では最もポピュラーな魚のひとつで「釣りはしないけど、ニジマスなら釣ったことある」という人はきっと多いでしょう。

このニジマスは、実は遊漁においてメジャーと言うだけではなく、むしろ漁業上でより重要な水産物といえます。というのも、「回転寿司のサーモン」の多くはニジマスを改良して作られたものだからです。

馴染深い淡水魚「ニジマス」は実は侵略的外来種 功績あれば悪影響もいわゆる「サーモン」の多くはニジマス(提供:PhotoAC)

元来、海と川を行き来しながら成長する性質を持つニジマスは、改良によって海で育てることも可能になります。そのようにして海面養殖できるようにしたものが「サーモントラウト」として寿司ネタなどに利用されるのです。

またこのほか、内陸で養殖されるヤシオマス、ギンヒカリ等の養殖ブランドも存在しており、食味の良さで高い評価を受けています。

ニジマスは実は外来魚

そんな我々の生活に欠かせないニジマスですが、「実は外来魚である」ということはあまり知られていないように思います。ニジマスの原産地はカムチャッカ半島から北米に至る北太平洋沿岸地域で、1877年に移入されるまで日本には生息していませんでした。

馴染深い淡水魚「ニジマス」は実は侵略的外来種 功績あれば悪影響もこの美しい色合いから「レインボートラウト」(提供:PhotoAC)

ニジマスという和名も、英名であるレインボートラウトの直訳です。ブラックバスやブルーギルのようなカタカナ名ではなく「虹鱒」という漢字名もあること、何よりもその知名度の高さから、外来種と思われていないのでしょう。

外来種問題を引き起こしている

外来種としての知名度は低いニジマスですが、残念ながら外来種が引き起こす諸問題については、言及しないわけにはいかない状況となっています。

日本では北海道を中心に、自然環境下に放流されたり、釣り堀から逃げたりして野生化した個体が多く生息しています。とくに北海道では釣り人団体等によって慣例的に放流され続けており、「日本の河川にいるのは自然なこと」と思い込んでいる釣り人も多いです。

馴染深い淡水魚「ニジマス」は実は侵略的外来種 功績あれば悪影響も本州の河川で漁獲された大型野生個体(提供:茸本朗)

しかしニジマスは降海市内個体でも、大きくなると60cmを超え、貪欲で在来野生種を盛んに捕食するため、環境問題になっています。世界および日本の侵略的外来種ワースト100のいずれにも選定され、外来生物法に基づく生態系被害防止外来種として指定されています。(『侵略生物データベース』 国立研究開発法人 国立環境研究所)

問われる再放流の判断

「冷水域の魚なので日本の河川には定着しない」という説もありますが、関東以西でも繁殖はしないものの、夏越しに成功し長期に渡り生存する個体は普通に見られます。このままではブラックバスに並ぶ「有害外来種」として認識される未来が来るかもしれません。

釣り人の中には「大型のニジマスは釣り味が良いので、釣れてもリリースするべき」という身勝手な主張をする人もいますが、環境により大きな負荷を与える大型個体を釣り上げた場合、再リリースすることはやめるべきでしょう。それよりも、かつてのような河川環境を整え、サクラマスやアメマスのような在来の大型マス類が大きく成長できる環境を整備するほうが、長い目で見れば遥かに素晴らしい釣り環境になるのは間違いありません。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>