言わずと知れた超高級魚・トラフグ。天然モノともなれば、雲の上の存在とも思えますが、実は現在天然トラフグの価格がどんどん下落しているようです。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
天然トラフグの価格が下落
市場で最も高単価な魚のひとつとして知られる天然トラフグ。てっさ(刺身)やてっちり(ちり鍋)の最上級材料として唯一無二の存在と言えるトラフグは、店頭価格ではキロ20,000円を上回るようなこともしばしばです。
しかし近年、そんなトラフグの価格に異変が起こっています。
東京の中央卸売市場である豊洲市場では11月13日、天然活けトラフグの卸売価格はキロ2,600~2,500円をつけました。これは前年同期比3割安で、卸売業者は「今までで一番安い」と驚いています。(『豊洲市場 天然活トラフグ史上最安値 水温上昇、千葉などで漁急増2600円』みなと新聞 2020.11.13)
価格下落の理由
トラフグは本来は南方系の魚であり、主に西南日本で水揚げされる漁獲物でした。フグ自体が関西や西日本で人気の高い食材であり、取引高最大の市場が下関であることもそれが関係しています。
しかし実は2年ほど前から、千葉や茨城など首都圏近郊や、福島県など東北の一部漁場で天然トラフグが水揚げされるようになっているのです。これらが豊洲市場に次々入荷するようになった結果、供給量が増え需要を上回ったのです。
分布域拡大の原因
トラフグが東日本で水揚げされるようになった背景には、「海水温上昇」によって棲息域が北上していることが関連していると考えられます。特に近年水温上昇が著しい東京湾では、古くから親しまれている「ショウサイフグ釣り」の外道に、数年前から大きなトラフグが混ざるようになっており、棲息数が増えていることが推測されています。
現時点ではあまりフグに馴染みのない北日本や北海道でも、今後さらに温暖化が進めば当たり前に水揚げされ、食べられるようになるかもしれません。
しかし、棲息域の北上は喜ばしいことばかりではありません。例えば、フグの種類ごとの棲息域の変化により、あらたな雑種の発生も報告されているのですが、雑種個体は親たちと有毒部位が違う可能性があるため、食用にすることができないのです。
そもそもフグの有毒部位は、同一種であっても地域によって変化することが知られており、棲息域が北上しても、新しい棲息地で獲れたフグが食用にできるものとは限りません。
今後、釣りなどで見慣れないフグが釣れることが増える可能性もありますが、むやみに食べるのは控えたほうが良いでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>