名前の由来が『残念すぎる』サカナたち 実は美味なものばかり?

名前の由来が『残念すぎる』サカナたち 実は美味なものばかり?

多種多様な魚を産出する日本には、見た目が悪い・命名者の口が悪いなどの理由から「ひどい名前」をつけられた魚があります。でも、そんな魚たちに限って美味だったりするんです。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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サカナ研究所 その他

差別用語が理由で和名が変更

去る2007年、日本魚類学会によって、国内に産するいくつかの魚の和名が変更されました。これにより「イザリウオ」が「カエルアンコウ」に、「メクラウナギ」が「ヌタウナギ」に変更されるなど、実に1綱2目・亜目5科・亜科11属32種にも及ぶ分類名が新しくなったかたちとなります。

名前の由来が『残念すぎる』サカナたち 実は美味なものばかり?ヌタウナギ(提供:野食ハンマープライス)

なぜこのような変更が行われたのかと言うと、これらの分類名はいずれも「差別用語」が用いられていたためです。槍玉に挙げられたのは「メクラ、オシ、バカ、テナシ、アシナシ、セムシ、イザリ、セッパリ、ミツクチ」の9単語で、いずれも身体的に不自由がある人への差別用語とされています。(『差別的語を含む標準和名の改名とお願い』日本魚類学会 2007.2.1)

ポリティカル・コレクトネスの考え方もあり、公式な場や報道においてはこれらの用語を使わない(いわゆる放送禁止用語)となっており、アカデミックの場でもこの動きに追随したというわけです。

かわいそうな名前のサカナたち

一方でこの変更においても触れられることのなかった「かわいそうな名前」の魚たちがいます。

斑点が疣に見えてしまう『イボダイ』

名前がかわいそうなサカナ。たとえばイボダイ。

名前の由来が『残念すぎる』サカナたち 実は美味なものばかり?イボダイ(提供:PhotoAC)

漢字で書くと「疣鯛」、新鮮な個体の体表にある黒い斑点を「お灸をしすぎた人の皮膚にできる痣」に見立ててつけられたものです。

『カサゴ』は皮膚病が由来

またほかにも、カサゴは今でこそ「笠子」と書かれることが多いですが、由来的には「瘡魚」が正しいという説があります。瘡とは皮膚病のことで、突起が多く暗褐色のまだら模様になっている体表をそう例えたのだそうです。

名前の由来が『残念すぎる』サカナたち 実は美味なものばかり?カサゴ(提供:野食ハンマープライス)

ストレートな悪口『オコゼ』

もっとストレートなものもあります。オコゼの「おこ」には醜いという意味があり、オコゼは「醜い魚」という意味があります。地方名には「ヤマノカミ」というものもありますが、これも日本では山の神様は醜い女性(イワナガヒメ)であると言われていることによるものです。

名前の由来が『残念すぎる』サカナたち 実は美味なものばかり?オニオコゼ(提供:PhotoAC)

人への差別用語こそ使ってはいけないようになりましたが、魚そのものの容姿を貶めるような命名は現状では問題視されておらず、変更の必要もないということになっているのです。個人的にも「よほどの理由がない限り、正式和名は変更するべきではない」と考えていますが、それでもちょっと気の毒な気がしてきます。

いずれも夏が旬

さて、上記のイボダイ、カサゴ、オコゼにはまた別の共通点があります。それは「夏が旬の高級魚である」ということ。いずれも見た目の悪さに似合わないきれいな白身で旨味が強く、美味な魚です。

イボダイはシズ、モチウオと呼ぶ地方も多く、開いて一夜干しにすると一級品。新鮮なら刺身にしても美味しく、同じ仲間でずっと大きくなるメダイよりも珍重する地域も多いです。

名前の由来が『残念すぎる』サカナたち 実は美味なものばかり?カサゴの煮付け(提供:PhotoAC)

カサゴは煮付け、オコゼは唐揚げで知られますが、いずれもゼラチン質が豊富で加熱するとムチムチふわふわとした食感になります。薄造りの刺身にしてもよく、オコゼはその身質から「夏のフグ」と呼ばれることもあります。

いずれも見てくれが悪くとも評価の高い魚で、高値で取引されています。最終的には見た目ではなく「中身(味)」で魚を評価・判断するのも日本人の良いところと言えるかも知れません。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>