「海〇〇」と名付けられた生き物はたくさんありますが、中には名前と異なる見た目のものも。今回は、「うみそうめん」と名付けられた2つの生物を紹介します。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
バラエティ豊かな「ウミ〇〇」
海の周りに棲息しているために「海〇〇」と名付けられた生き物がいます。そういう生き物はたいてい、陸上にあるものや生き物の名前に「ウミ」という接頭辞をつける形で名付けられています。
こういった生き物の名前には、興味深いユニークな特徴があります。たとえば「鳥」の名前をつけられたものでも、ウミスズメは魚でハコフグの仲間、ウミツバメは鳥でツバメの仲間です。
ほかにも「ソフトコーラル」と呼ばれるサンゴの一種にはウミサボテン、ウミイチゴなんて呼ばれているものもあるそうです。「ウミキノコ」も同じくサンゴですが、「ウミタケ(海茸)」は二枚貝です。ウミユリ、ウミシダなどは植物の名前がつけられているものの、実は「棘皮動物」というウニに近い動物です。
「海のそうめん」には2つある
さてそんな「ウミ〇〇」シリーズの中に、料理の名前がつけられたものがあります。もっとも著名なものは「うみそうめん」と呼ばれるもの。しかし実はこのうみそうめんには「海素麺」と「ウミゾウメン」の2つがあるのです。
こちらが「海素麺」。薄黄色の縮れ麺といった見た目で、どちらかというとそうめんというよりは中華麺に近い印象を受けます。こちらは実は「アメフラシ」という生物の卵塊です。
アメフラシはウミウシの一種で、初夏から夏にかけて、浅い潮溜まりで産卵します。この時期に海に行くとあちこちでこの黄色い麺が落ちており、目を引く存在です。触り心地は予想よりも硬く、ぷりぷりとしています。
それに対し、「ウミゾウメン」はこちら。
そう、こちらは海藻の一種なのです。「海素麺」はいわば通称というか愛称のようなものですが、このウミゾウメンはれっきとした正式和名。外洋に面した波の荒い岩場に付着して成長する海藻のひとつで、ワカメやコンブと同じ褐藻類に含まれます。長いものでは60cmほどの長さになり、まさに麺類といった見た目ですが、色合い的にはそうめんというより「茶そば」のようです。
「海の素麺」という言葉はやはりキャッチーなようで、メディアで取り上げられることもしばしばあるのですが、残念なことにこの2つが混同されている例も見受けられるようです。
美味しいのは「ウミゾウメン」
さてこの海素麺&ウミゾウメン、気になるのはやはり「食べられるかどうか」ですよね。実はウミゾウメンの方は、食用にされています。
生で食べると、やや太く歯ごたえの強いモズクのような食感でとても美味です。軽く火を通しても美味しく、とくに薄目の味付けで汁物の具にするとほかにはない味わいです。山陰など、地域によっては流通することもあり、美味しい海藻として親しまれているそうです。
一方で「海素麺」の方も食用にする人はいるようですが、こちらは親であるアメフラシの食性から、地域によって毒性を持つことがあるといいます。むやみな試食は避けたほうが良いでしょう。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>