初夏の東京湾『金アジ』が絶品の理由 ノドグロと同等の価格になることも

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誰からも愛され、親しまれる大衆魚「マアジ」。いくつもの有名産地がありますが、世界最大の都市圏・東京の前海でも素晴らしいアジが水揚げされています。

(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)

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マアジの旬

日本で最もポピュラーな魚といえばなにか、アンケートを取ったら上位に来るであろう魚のひとつにアジがあります。

初夏の東京湾『金アジ』が絶品の理由 ノドグロと同等の価格になることも「ぜいご」と呼ばれる体側の稜鱗が特徴(提供:週刊つりニュース編集部)

一年中店頭に並んでいるため旬のわかりにくい魚ですが、実はこの時期、初夏から夏にかけてもっとも味が良くなります。これは代表種であるマアジが、秋の産卵を控えて接岸し餌をたくさん摂るため。小田原や平塚のようなアジ漁が盛んな漁港では、アジの豊漁が初夏の風物詩の一つとなっています。

「味が良い」ことからそう名付けられたとも言われるアジ。初夏の個体はまさにどんな魚にも負けない旨味があり、タタキや刺身、なめろうのように生食するほか、塩焼きやアジフライなど、どのようにして食べても美味しいです。

初夏の東京湾『金アジ』が絶品の理由 ノドグロと同等の価格になることも絶品アジフライ(提供:PhoteAC)

アジは日本近海にもたくさん棲息している魚のため古くから愛されており、全国各地で水揚げされています。その中には大分の「関あじ」のように知名度の高い、いわゆるブランドアジもあり、高価なものでは2,000円/kgを超えることもあります。

釣り対象魚としても人気

さて、そんなアジは釣りのターゲットとしてもトップクラスの人気を誇っています。初夏になると堤防に接岸し釣り少年たちの好敵手となる「小アジ」「豆アジ」から、船で沖に出て電動リールを駆使して釣り上げる50cmに迫る巨大アジまで、幅広い層に愛される釣魚と言えるでしょう。最近では小さなルアーを使って釣る「アジング」という釣りもブームです。

東京湾には大変多くの釣宿がありますが、そこでもアジは最も人気のある魚種。簡単な仕掛けで短時間楽しむ「ショートフィッシング」から、やや深いところで大物を狙う「一日船」まで様々なプランがありますが、その多くは横浜港のすぐ沖、少し出ても横須賀市沖ぐらいまでの近場で釣らせることが多いです。船宿によっては埠頭岸壁のすぐ近く、陸にいる人の顔が識別できるくらいの距離で釣らせるようなことも。

初夏の東京湾『金アジ』が絶品の理由 ノドグロと同等の価格になることも大きくはないが誰でもたくさん釣れる(提供:野食ハンマープライス)

わざわざそんなところで釣らせるなんて、さぞかし大物がいるのだろうと思いきや、アベレージサイズは20cm強のいわゆる「小アジ」がメイン。わざわざ船に乗って、大きくもないアジをちまちま釣るなんて何が楽しいのか……と思う人もいるかもしれませんが、実は川崎や千葉方面からも釣り船が押し寄せるほどの人気ポイントなのです。一体、どんな秘密があるのでしょうか。

「キアジ」と「クロアジ」

実は、マアジという魚は大きく2つのタイプに分けられます。ひとつが、外洋に棲息し広く回遊しながら餌を摂る「クロアジ」と呼ばれるもの。細長いシルエットをしていて、サイズが大きくなります。そしてもうひとつが、内湾の沿岸部に棲息し、あまり回遊せず同じ場所で餌を摂る「キアジ」と呼ばれるもの。こちらは体高があり、あまりサイズは大きくなりませんが、回遊をあまりしないためか脂がよく乗っています。

初夏の東京湾『金アジ』が絶品の理由 ノドグロと同等の価格になることもキアジはラグビーボールのようなシルエット(提供:野食ハンマープライス)

東京湾で穫れるアジの多くはいわゆるキアジタイプ。世界屈指の富栄養海として知られる東京湾ですが、その中でも横浜沖は、多摩川や鶴見川などの都市河川から流入する豊富な栄養塩によって、アジのエサとなるプランクトンが大変多くなっています。そのため、ここで穫れるアジは他の海域と比べ、圧倒的に脂ののりの良さを感じます。それと合わせ、ときに2ノット(約3.7km/h)にもなる速い潮流の中で暮らすために筋肉も発達しており、身の味そのものもとても良いのです。

東京湾の「金アジ」

初夏の東京湾『金アジ』が絶品の理由 ノドグロと同等の価格になることも脂ののりは抜群(提供:野食ハンマープライス)

ヒレの色が黄色みがかっているこの地のアジは「金アジ」と呼ばれており、初夏になると舌の肥えた釣り人たちも目の色を変えてこのアジを追いかけます。近年、その味の良さが流通のプロにも知られるようになり、日によっては浜値(漁師から買い付けるときの価格)で2,500円/kgという高値をつけることもあるといいます。これは白身の高級魚として知られるのどぐろ(アカムツ)にも匹敵する価格です。

大都会の前海にいながら、その美味をあまり知られていない「金あじ」。我々首都圏に住む魚好きとしては、ぜひこの金あじを地元の銘ブランドとして誇るべきだと思います。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>