「チヌマン」という魚をご存知でしょうか。沖縄などの南日本でこの時期旬を迎える、ちょっと変わった見た目の魚です。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
沖縄で「チヌマン」が旬
沖縄県北部に位置し、太平洋に面した東村(ひがしそん)。ここで先月、近海で漁獲されたとある魚の試食会が開かれました。
村にある道の駅でふるまわれたのは「チヌマン」と呼ばれる魚の一夜干し。チヌマンは皮目に独特のクセがあるものの、秋から冬にかけて脂ののりが良く美味しいとされ、マイナーながら人気の魚となっています。
試食した人からはも概ね好評だということで、東村は特産品として一年を通して漁獲し、加工品として販路拡大に取り組む予定だそうです。(『クセが凄い魚を特産品に 沖縄・東村』沖縄テレビ放送 2022.3.1)
チヌマンってどんな魚?
チヌマンという魚名について、とくに東北日本で聞いたことがある人はかなり少ないのではないかと思います。関西以西の人でも「チヌ(クロダイ)の親戚かなにか?」と思う人がいるかも知れません。
実際のところ、チヌマンはチヌとは全く関係がなく、タイの仲間でもありません。標準和名では「テングハギ」と呼ばれる魚で、額(前頭部)から角状の突起が前に向かって伸びるというユニークな特徴があり、それを天狗の大きな鼻に例えて名付けられたものです。
温かい海に生息する魚で、南日本に多く生息していますが、食用としては南西諸島以外ではメジャーとはいえないようです。むしろそのユニークな見た目から、水族館で人気の高い存在となっています。
どんな味?
テングハギが含まれる「ニザダイ科」というグループには、代表種であるニザダイを始め、いわゆる「磯臭い」とされる魚が多く含まれています。
このような魚は、個体にもよりますが、皮のすぐ下や鰭の付け根、内臓や肛門の周りに脂肪をためやすく、そしてその脂肪に臭みを溜め込んでいる事が多いです。したがって、脂が乗って美味しくなるはずの「旬」ほど臭くもなりやすいというアンビバレントな特徴があります。
しかし「チヌマン」ことテングハギはこのグループの中では比較的臭みが少ないとされます。ニザダイ科の魚は臭みさえなければ、カワハギのようにしっかり締まった身に甘みの強いなめらかな脂肪が乗るため、美味しくないわけがありません。
このような魚は、活けのものを手に入れて活け締め・血抜きをしっかり行い、できるだけ早く臭みのもとである内臓を出す(できれば皮も剥く)ことで美味しく食べられる可能性が高まります。市場ではなかなか難しいかもしれませんが、釣るなどして活けのものが手に入ったときはそのような処理をおすすめします。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>