実は食材としても人気の高いトビウオ。おもに地場で消費されるローカルな魚ですが、この魚を地域おこしの材料としている自治体があります。和歌山県串本町の取り組みをレポート。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
空を飛ぶ魚「トビウオ」
「水族館でも魚屋でも目にしないのに知名度の高い魚」と聞くとどんなものを連想しますか? 個人的には「トビウオ」はその代表的なものではないかと思います。空を飛ぶ魚として有名なトビウオ、その名を知らない人はまずいないと思いますが、一方で実物を見たことがある人は意外と多くはないのではないでしょうか。
トビウオは鳥のような翼を持っているわけではありませんが、胸鰭がまるで翼のように大きく発達しています。捕食者に追われると高速で泳いだまま海面上に飛び出し、広げた胸鰭でグライダー滑空するように飛びます。
滑空技術は個体差が大きいですが、ときに断続的に着水しつつ数百mほども飛ぶことがあります。捕食者以外にも、大きな船の影にびっくりして飛び立つことがあるのですが、船べりに立っているときに足元から飛び立たれるとこちらもかなりびっくりします。
南&西日本では「人気食材」
さて、先程「魚屋で目にしない」と書きましたが、実はこれは東・北日本での話。西南日本では、実は比較的よく食用にされ、魚屋でも当たり前に見かけることができます。
暖流の流れる海域に多く、南日本には専門の漁も存在するほど、食材として愛されている魚です。脂があまりなくさっぱりとしており、透き通った筋肉は旨味が強く、サヨリにも似て美味しいです。
トビウオを賞味する際は鮮度が何よりも大事。水揚げされたばかりのものは身がコリコリモチモチとして強い弾力があるのですが、これが失われてしまうと魅力は半減してしまいます。そのため人気がありながらも、遠くまで流通することはなく、結果として産地から遠い東日本ではあまりポピュラーになっていないのでしょう。
和歌山県串本町は「トビウオの町」
トビウオが水揚げされる自治体のひとつに、和歌山県串本町があります。本州最南端の町として知られる串本は、和歌山で唯一トビウオが漁獲されるところでもあり、「とっぴー」という愛称でも呼ばれ、町の魚にも指定されているほど愛されています。
そんな串本町では、トビウオが様々な形で観光資源として活用されています。そのひとつが、ご当地グルメ「とびうお丼」。旬である夏の時期のみ食べられるこの丼は、水揚げされたばかりの新鮮なトビウオが使われており、食感の楽しさや爽やかな味わいが楽しめます。店舗によって独自の味付けがなされており、食べ比べができるのも魅力の一つ。
トビウオのすくい取り体験
また、串本ダイビングパークが実施する「トビウオのすくい取り体験」もここ数年話題となっています。明かりに寄る習性のあるトビウオは、夜になると漁船のライトに集まってきます。そのトビウオをタモ網で掬う「トビウオすくい」は、子供から大人まで楽しめるアトラクションということで人気になっているのです。(『トビウオのすくいどりに挑戦』串本ダイビングパーク 体験プログラム)
アドベンチャーワールドや白浜海水浴場といった人気観光地がたくさんある和歌山県ですが、もし夏に行くなら串本まで足を伸ばし、トビウオを楽しんでみるというのもオススメです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>
串本町