「猫=魚好き」のイメージは日本ならでは 人間の食生活が深く関連

「猫=魚好き」のイメージは日本ならでは 人間の食生活が深く関連

国民的アニメの歌詞にも出てくるほどだから、猫は魚が大好物に違いない!と思っている人も多いでしょう。しかし、実際は猫はそこまで魚が好きじゃないかもしれません。猫の食性の歴史と昔から使われる「ねこまたぎ」という言葉の関係性についてご紹介します。

(アイキャッチ画像出典:Pixabay)

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「猫=魚好き」のイメージは日本だけ

「猫の好物といえば魚」、このイメージが強く、「お魚くわえたドラ猫、追っかけて♪」と頭の中で音楽が再生される人が多いはず。

この歌詞も相まって、猫は魚が大好物というイメージがアタリマエになっていますが、実は猫は魚が大好物ではありません。

本来、猫は水辺の生き物ではなく、完全陸型の肉食獣の仲間です。海外では猫が魚好きというイメージは一切なく、実際にも猫たちは魚ではなく、肉を好んで食べているようです。

猫が魚を好んで食べるようになった経緯には、人間の生活が密接に関わっています。

日本人の食生活が原因

日本で猫が庶民に飼育されるようになったのは、江戸時代の頃からと言われています。それまでにも武士や貴族の間では愛玩動物としての地位を確立はしていましたが、猫は穀物倉などをねずみから守る役割が一般的でした。

また江戸時代までは仏教が主流だったため、天皇が狩猟を禁じたこともあり、獣肉が避けられるようになりました。こういった歴史的背景と島国という地理的状況も相まって、日本人の主なタンパク源は魚に変わっていきました。

江戸時代になると、日本人の魚食文化も庶民にまで行き渡り、鰯(いわし)など庶民に親しまれる魚もでてきました。また猫も庶民の間でも飼い猫として親しまれるようになっていきました。

当初は、漁師の網などをねずみから守る役割が強い猫でしたが、庶民の生活に溶け込むうちに、あまった魚の骨などをご飯としてもらう猫がでてきます。必然的に肉よりも人間の食べた魚のおこぼれをもらって食べることが多くなり、「猫=魚」というイメージがついたのではないかと言われています。これが後の「お魚くわえたドラ猫、追っかけて」に繋がっていきます。

猫が喜んで食べるので、「本当に猫は魚が好きだな」と感じている飼い主もいるでしょう。しかし、これは猫が魚好きなのではなく、魚食文化が強い日本人の生活の中で生活し、その影響を受けて育ったからこその姿なのです。

「猫=魚好き」のイメージは日本ならでは 人間の食生活が深く関連(画像出典:Pixabay)

「ねこまたぎ」の意味

日本人とともに、サカナを食べてきた日本の猫ですが、その中でも猫が食べないサカナのことを総じて「ねこまたぎ」と呼びます。

地域性や諸説ありますが、現在では猫すら見向きもしないサカナの意で統一されていますが、実はこれには多少間違いも含まれます。

その一例が、マグロです。江戸時代には、クーラーは存在しませんでした。そのため如何に鮮度保ち港、はたまたお上(将軍)の元へ運ぶか思考錯誤されていました。しかしマグロはどうしても鮮度を保つことが難しく、江戸時代には不人気のサカナでした。また猫もまだ現在ほど、魚食が浸透していなかったためまたいで通る光景から、「ねこまたぎ」と呼ばれていました。

また地方によってねこまたぎの対象となるサカナは変わりますが、一般的には日本各地で「魚が大好きな猫ですら、またいで通り過ぎてしまうほど美味しくない魚」というニュアンスで使われています。

北海道のねこまたぎ

北海道では、産卵期前後の鮭のことを指すそうです。

産卵のために川を遡上した鮭の見た目はボロボロになり、身の色も悪く脂も少なくなっているので、「そんなまずい魚は猫も食べない」という意味から「ねこまたぎ」と呼ばれているそうです。

関東のねこまたぎ

関東での「ねこまたぎ」は先程も登場したマグロのトロ。江戸時代では、マグロのトロの部分は、すぐに傷んでしまうため、あまり好まれていませんでした。

そのため、当時はすぐに捨てられてしまったり、畑の肥料にされたりしていたようです。

昭和になると、技術の進歩により、身が傷む前に船が港に戻る事ができるようになり、だんだんとトロの希少さと旨さが世間に知れ渡るようになりました。

この他にもサバやイワシなども同じ理由でねこまたぎと呼ばれていたようです。足の早いサカナはみんなかつては「ねこまたぎ」だったということです

関西のねこまたぎ

関西での「ねこまたぎ」は他の地域と少しニュアンスが異なります。他の地域では、食べられないくらい美味しくない魚というような意味で使われいましたが、関西では「あまりの美味しさに骨しか残らないサカナ」とされています。

その意味は他の地域と比べて正反対。関西でのねこまたぎはすごく美味しい魚という意味なのでお間違いのないように。

また中国・四国地方は、関西のねこまたぎと一般的な美味しくないというふたつの意味をもちます。

特に「ままかり(サッパ)」は、ねこまたぎとして有名で、お隣にまんま(ご飯)を借りに行ってまで食がすすむほど、あまりにも美味しいことから名前がついたとされます。

人間のパートナーだからこその食性

国民的なアニメの主題歌だったこともあり、「猫は魚が大好物」だと思い込んでいましたが、実はこれは日本だけであり、世界的に見れば、魚が好きな猫は珍しいと言えます。

もちろん海外でも、港町で生きる猫は魚が主食でしょう。

人々の生活様式によって、猫の主食は変わって来たと言えます。ちなみにオーストラリアには、肉や魚ではなく、まさかのピザが好きな猫が多いのだとか。またマッシュポテトを好きな猫も多いようで、イモ由来のキャットフードも販売されているようです。

最近では、お魚くわえたドラ猫を見る風景は少なくはなりましたが、これからも猫と人は共存していきます。またあたらしい食べ物好きな猫が現れてくるかもしれません。

<近藤 俊/TSURINEWS・サカナ研究所>