神戸の街中を流れる運河に大量のボラが押し寄せ、その光景が話題になっています。異常事態のようにも見えますが、実は各地でよく見られる現象なのです。
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神戸の運河に「ボラ」の大群
海から遡上した魚の大群が、神戸市の運河の水面をびっちりと埋め尽くし、話題になっています。
この珍事の舞台となったのは、酒どころで有名な神戸市灘区にある「新在家運河」。20~30cmほどの「ボラ」が隙間なく水面を覆い、1m四方に数十匹が集まるほどの大変な密になっています。
彼らは時折飛び跳ねたりするものの、概ねおとなしく水面を漂い、ときに水面に口を出してパクパクとする様子が観察されています。その異様な光景に、通りすがる人々も思わず覗き込んでいるそうです。
急激な気候変化が原因か
今回話題になっているこのボラですが、沿岸の浅い海に棲息しており、川などにも遡ることから馴染みのある魚です。
ボラが新在家運河に押し寄せたのは、ここ数日の急激な気候変化などが原因とみられます。
ボラは本来浅い内湾に多い魚で、運河や河口といった場所に集まりやすい習性があります。水温の乱高下などで深い場所の酸素が不足したり、本来の生息場所が摂餌に適さない環境となったときには、多くの個体がこのような場所に集まり大群をなすことがあるのです。
その他にも、鳥や大型魚などに追い詰められ、河口や港内などに押し寄せることもあるといいます。
実は「冬の風物詩」?
「異常事態」のようにも思える今回の現象。実のところ、ボラの大群が押し寄せることは、毎年冬になると各地で見られる「ごく当たり前の現象」なのです。
都会の川でこの現象が起こると注目を集めるため、しばしばニュースになります。実は直近でも、東京の大田区を流れる呑川でも同じような光景が見られ、話題となりました。過去には2003年に東京の立会川にボラの大群が押し寄せたことがありましたが、当時多摩川にいたアザラシ「タマちゃん」のニュースと合わせて大きな話題になりました。
このような光景が見られると、「都心の川や運河の水質がきれいになったために魚が戻ってきた」という人たちがいます。しかし、残念ながらボラ自体は相当汚い水中でも生息できる魚のため、彼らがいるから水質が良くなったとは言えません。
しかしながら、ボラもいなくなってしまったらそれはまさに「死の河川」。変わったものが見られたね、で済ませることなく、それを良い機会として水中生物たちに思いを馳せてみてはいかがでしょうか?
<脇本 哲朗/サカナ研究所>