静岡市北部の遊水地で、冬の風物詩となっている「とある伝統漁」が今年も実施。クリ・コナラ・シイなど、「ドングリの木の枝」を使ったユニークな漁です。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
静岡の伝統漁「柴揚げ漁」
古くから静岡市の麻機地区に伝わる伝統の漁「柴揚げ漁」が、1月17日に行われました。
現在は、静岡市北部にある麻機遊水地でのみ行われている柴揚げ漁ですが、なんと室町時代から続いていると言われています。現在では、地元の保存会が当時の柴揚げ漁を再現しており、地域の冬の風物詩となっています。
この日はモツゴ7匹とフナ4匹がとれ、バケツや水槽で展示されたこれらの魚を、子どもたちが興味深そうに観察していました。(『静岡市の麻機遊水地で冬の風物詩 柴揚げ漁』SBS静岡放送 2021.1.18)
「柴揚げ漁」とは
柴揚げ漁は、かつて静岡市にあった「浅畑沼」という大きな沼で盛んに行われていた漁です。この浅畑沼は干拓の結果ほとんど消失してしまいましたが、その一部が「麻機遊水地」となっています。
柴揚げ漁は、冬になると物陰に隠れる魚の習性を利用した漁です。まず、前年の秋に、クリ・コナラ・シイなどのドングリの木の枝を葉付きのまま水中に投入し、水面から出るまでしっかりと積み重ねます。そして、それを囲むようにすだれを配置します。この投入する枝のことを「柴」といいます。「おじいさんは山へ柴刈りに~」の柴と同じものですね。
冬になり水温が低下すると、多くの魚たちが隠れ場所を求め、この柴の周囲に集まります。漁のときは柴をどかし、その中にいる魚をタモ網ですくうのです。フナ、コイ、モロッコ、テナガエビ、ドジョウなどいろいろな魚が捕れ、かつてはその場で調理し、親類友人も集めて一日中遊んだのだといわれています。(『しずおか民俗歳時記 柴揚げ漁』さきがけミュージアムHP)
全国各地の「柴漬け漁」
さて、実は「枝を束ねたもの」を利用して行う漁は、この柴揚げ漁以外にも、全国各地に存在します。そして面白いことに、その殆どは「柴揚げ」とは逆の「柴漬け漁」と呼ばれています。
特に有名なのが、川での漁が盛んに行われている高知県四万十川のもの。ウナギやテナガエビの漁法として現在も現役です。また、南日本では海でも行われており、こちらは沈めた枝の束にシイラやイカが産卵しに来たところを漁獲する、という仕組みになっています。
いずれの漁も「柴を水中に漬けて魚を集める」ので、「柴漬け漁」と呼ぶほうが一見すると自然にも思えます。しかし、静岡の漁は柴を漬けてから実際に漁を行うまで大きく空くので、いざ漁を始めるぞというときに行う「漬けていた柴を水から揚げる」という行為にフォーカスが当たり、「柴揚げ漁」という名前になっているのかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>