先月、駿河湾であの「リュウグウノツカイ」が生きたまま漂着するという出来事がありました。深海魚であるリュウグウノツカイが、なぜ浅場で発見されたのでしょうか。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
生きたリュウグウノツカイを発見
12月、静岡県沼津市の海で、珍しい深海魚が発見され、話題となりました。
岸壁沿いの浅瀬を泳いでいたのはなんと、幻の深海魚として知られるリュウグウノツカイの幼魚。50cmほどの個体で、近隣の水族館の職員が発見し、一旦リリースしたものの、残念ながら衰弱死してしまったそうです。
リュウグウノツカイは近年漂着例自体は多く報告されていますが、今回のように「生きたまま見つかる」というのは大変珍しいことです。今後は標本にされた上、研究に活用される予定だといいます。(『“神秘の深海魚”生きた姿でみつかる 静岡』日テレNEWS24 2020.12.16)
浅場で見つかった理由
今回、リュウグウノツカイが発見された沼津市が面する駿河湾は、日本で最も水深の深い湾として知られています。しかもただ深いだけではなく、大陸棚がほとんど存在せず、岸近くから一気に深くなるという特殊な地形をしています。
こういう海域では、風の力や水温差などで「湧昇流」と呼ばれる海水の流れが発生し、深海から表層まで浮かび上がる力が働きます。これによりプランクトンや栄養塩が撹拌されるために生物相が多い豊かな海となっているのですが、この流れに乗って深海魚が打ち上げられてしまうことがあるのです。
リュウグウノツカイが発見された日は、前日から強い風が吹き荒れ、当日は気温が大きく下がって表層水温が下がったため、強い湧昇流が発生したと考えられます。もともと遊泳力の強くないと思われるリュウグウノツカイがこれに巻き込まれてしまったのでしょう。
生きた状態の深海魚も
リュウグウノツカイは珍しいものの、駿河湾や富山湾などの深い湾では生きた深海魚が見られるのはさほど珍しいことではありません。ミズウオやサケガシラなどの魚が打ち上げられたり、時にはダイオウイカが定置網に入ることもあります。
深海魚の漂着は特に冬から春にかけて大潮の夜に発生することが多く、打ち上げられた深海魚を観察したり、採取する人もいます。駿河湾では好事家によって「ミズウオ拾い」が行われ、拾ったミズウオを食する例もあるようです。
また富山湾ではときに、定置網に入った深海魚が販売される例もあります。生きたまま漁獲されるために鮮度的にも問題がないのです。
筆者も一度、富山湾産の「サケガシラ」という魚を食べたことがあり、味はそこまででもないですが「面白いものを食べた」という満足感はありました。今後はこのような「漂着深海魚」にもいろいろな形でスポットライトがあたっていくようになるかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>