重油流出事故がサカナに与える影響 死に直結する「細胞毒性」とは?

重油流出事故がサカナに与える影響 死に直結する「細胞毒性」とは?

連日ニュースを賑わせている、モーリシャスの重油流出事故。豊かな自然に与える影響は甚大なものになると言われています。重油の流出は、「魚」にどのような影響をもたらすのでしょうか。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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その他 サカナ研究所

モーリシャスの重油流出事故の影響

インド洋の島国「モーリシャス」で発生した貨物船の漂着事故から、一か月が経過しました。座礁して真っ二つに折れた船からは1,000tもの燃料重油が流出し、同国の5%に至る海域に影響を及ぼしているといわれています。

船内部の重油の抜き取りは完了したとのことですが、流出した重油の除去は始まったばかり。周囲には同国最大の観光資源とも言われる広大なサンゴ礁が広がっており、油膜による海水の混濁や重油そのものの漂着によって、海洋生態系に大きなダメージがもたらされるのは確実です。

重油の流出で魚が死ぬ理由

それでは、重油の流出で魚が死んでしまう理由について説明しましょう。

重油に含まれる「炭化水素」

そもそも重油とは、石油(原油)を蒸留して成分を分離させる際に一番底に残る残渣であり、他の石油製品と比べて、低分子の「炭化水素」が主成分となっています。この炭化水素が、重油に曝露した生物たちに対し悪影響を与えるのです。

「細胞毒性」の影響

重油の炭化水素が生物にもたらすもっとも深刻なものは、細胞膜の機能を壊し壊疽に至らしめる「細胞毒性」です。細胞膜は外側が親水性、内側が親油性の基質でできているのですが、海水中に溶け込んだ炭化水素には親油性があるため、細胞膜の内側にまで入り込んでしまいます。

細胞膜には、細胞にとって必要なものを選択的に外部から取り込んだり排出したりする「選択的透過性」という機能があるのですが、炭化水素は細胞内部から細胞壁のこの機能を壊してしまいます。

その結果、最悪の場合その細胞は壊死し、機能を停止してしまうのです。(『流出石油が環境に及ぼす影響』独立行政法人製品評価技術基盤機構HP)

重油流出事故がサカナに与える影響 死に直結する「細胞毒性」とは?呼吸器官であるエラ(提供:野食ハンマープライス)

エラ細胞破壊で窒息死に

海水魚の場合、絶えずエラに海水を送り込み、水中の酸素を取り込むことで呼吸を行っています。重油が流出し海水に炭化水素が含まれると、それがエラの上皮細胞を破壊してしまうため、呼吸ができなくなってしまいます。その結果、直接重油が触れていなくとも、その水域の魚は窒息死してしまうのです。

被害は魚の斃死だけではない

重油による生物への科学的影響は、成魚よりも稚魚や卵にたいしてより大きくなると言われており、先の世代への被害も発生している可能性があります。魚そのものだけでなく、生育に欠かせないサンゴ礁やマングローブなども漂着した重油によって死んでしまうことがあり、影響が長期化することも。

また仮に死に至らなくとも、重油が流出した海域の魚は独特の石油臭が染み付いてしまうといわれています。なんとか漁獲したとしても経済的価値がなく、そのため現地の漁業が短期的に壊滅状態に陥る恐れがあります。汚染された海域はごく一部であっても、その地域で獲れた魚介類に対しての風評被害が発生する可能性もあるでしょう。

重油流出事故がサカナに与える影響 死に直結する「細胞毒性」とは?遠浅は重油流出の影響が大きい(提供:PhotoAC)

現状、世界の先進各国による環境保護活動が実施されており、事態の解決が図られています。モーリシャスに多く残るような「自然海岸」は、重油の漂着に対しもっとも脆弱であるとされます。一刻も早い対処が行われ、世界屈指の貴重な自然ができる限り守られるよう祈るばかりです。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>