ホタルの幼虫の餌となることでも知られる貝「カワニナ」。マイナーではありますが、海にもいくつかの「ニナ」が存在します。実は食べると以外に美味しく、こちらは人間のおやつにちょうどいいんだとか。
(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)
ホタルの好物「カワニナ」
梅雨明けの時候イベントといえば「蛍狩り」。夜の帳が下りる中、涼しい風に乗ってどこからともなく飛来する小さな光を追いかけるのは、まさに風流の極みです。
かつてどこにでもいたホタルは、殺虫剤や農薬の普及、用水路のコンクリート化などの要因で多くの場所で姿を消し、今では貴重な生き物になってしまいました。しかし、郊外に残る谷戸や湧き水の残る公園など、都心近くでもホタルが残った場所はあります。
こういった場所は田んぼや畑のための用水路、溜池などの昔ながらの風景が残っています。しかしそれ以上に大切なのは、ホタル(ゲンジボタル)のエサとなるカワニナが棲息していること。カワニナそのものは特段我々の生活において役に立つことはありませんが、ホタルのエサとしてこれ以上ない重要性があり、またそのためによく知られた存在となっているのです。
川以外にもいる「ニナ」
さて、カワニナがいれば「海のニナ」もいるんじゃないか、とお思いの方がいるかも知れません。実際にそのとおりで、海には「ウミニナ」や「イソニナ」といった貝が棲息しています。ニナは漢字で書くと「蜷」となり、字の通り巻貝類(とくに小型で細長いもの)に広く用いられる呼び名なのです。
一方で同じく巻き貝を表す言葉に「ニシ(螺)」というものもあり、こちらはタニシやイボニシなどのようなころっとした海につけられることが多いようです。
カワニナは流れのある川底や用水路に多いですが、ウミニナは干潟などの砂泥底に、イソニナは磯の転石の裏に多く棲息しており、いずれも名前が生態を表していると言えます。しかしカワニナとウミニナはいずれも「吸腔目カニモリガイ上科」というグループに属し互いに近縁ですが、イソニナは新生腹足目アクキガイ科に属しており近縁とは言えないです。見た目だけならむしろイソニナのほうがカワニナと似ているのですが……
実は美味しい「ニナ」たち
さて、先程「カワニナは人の暮らしには役立たない」と言いましたが、ウミニナとイソニナはというと、実はそれぞれ食用貝としての実績があります。いずれも大きくない貝ですが、全国の波打ち際や浅い砂浜、潮溜まりに棲息しているのでかんたんに拾え、あっという間に量が集まるので食材としてはとても有用です。
これらの貝は海水程度の濃度の塩水(海水そのままでも可)でさっと茹でて、中身を取り出して食べられます。身も小さいですが味が濃く、内臓に強い旨味とほろ苦さがあって、巻き貝の中ではかなり美味な部類になると思います。また、素晴らしい出汁が出るので味噌汁の具にもぴったりです。
ウミニナやイソニナは、かつては各地の漁村でおやつ代わりに食べられていたといいます。食べる際は5円玉などの「穴の空いた貨幣」に殻の先端を差し込み、テコの原理で先端を折って空気穴を空け、殻の入り口から身を吸い出して食べたそうです。おとなり韓国では現代でも、街なかの屋台で塩茹でが売られることもあります。
ちなみに、実はカワニナも食用にされる地域がかつてあったようです。筆者も一度試しに食べてみたことがありますが、やや泥臭さがあるものの旨味もあり、決して不味い貝ではないと思いました。ただ現代では自分のお腹を満たすよりも、ホタルのエサになってくれる方がありがたいので、今後はあまり食べるつもりはありません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>