身近だけど知名度が低い「銀馬」ってなんの魚? 肝はカワハギ級で美味

身近だけど知名度が低い「銀馬」ってなんの魚? 肝はカワハギ級で美味

「銀馬」と呼ばれる変わった魚がいます。知名度は低いですが、独特なシルエットをしていて身近な海に棲み、そして食べても美味しい魚なのです。

(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)

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その他 サカナ研究所

シロギス釣りと外道

盛夏が近づき、いよいよハイシーズンを迎えつつあるシロギス釣り。釣りをしない人にとっては「天ぷら用の魚」というくらいのイメージかも知れませんが、釣りの世界ではトップクラスの人気を誇る魚です。

身近だけど知名度が低い「銀馬」ってなんの魚? 肝はカワハギ級で美味素人でもたくさん釣れる(提供:野食ハンマープライス)

浅い海に棲息するシロギスは全国的に身近な魚で、岸からでも、船に乗って行う釣りでも狙うことができます。入門者でも比較的簡単に釣れるため、老若男女に親しまれています。

ただその一方で、ゴカイ類という「あらゆる魚に好まれるエサ」を使う釣りなので、シロギス以外の魚、つまり「外道」がたくさん釣れます。

身近だけど知名度が低い「銀馬」ってなんの魚? 肝はカワハギ級で美味外道混じりの「五目釣り」もまた楽しい(提供:野食ハンマープライス)

その中には天ぷらだねとしてはシロギスをも凌ぐとされるマハゼやメゴチ(ネズミゴチ)など有名な魚もいますが、そうでないものも混ざります。

マニアックで中途半端な外道「ギマ」

そんなあまりメジャーでない外道のひとつに「ギマ」がいます。漢字で書くと「擬麻」あるいは「銀馬」。ザラザラした肌が麻のような手触りであることから「擬麻」というのはちょっと無理矢理感が強いですが、もう一方の「銀馬」はなんとなく想像がつくかもしれません。

身近だけど知名度が低い「銀馬」ってなんの魚? 肝はカワハギ級で美味なんとも印象深いシルエット(提供:野食ハンマープライス)

ぬぼーっとした長い顔、胸鰭が変化したトゲですっくと立つ様子はまさに馬。魚で言うなら前半身はカワハギ、後半身はブリのようなユニークな見た目をしており、初めて見たときは頭にクエスチョンマークが浮かびそうです。

このスラリとした尾びれからもわかるように、ギマはとても引きの強い魚。掛かったときの魚信の大きさに「大ギスか!?」とぬか喜びしてしまうことがあり、シロギス釣り師からはあまり好かれていません。

また、体表には強いヌメリがあること、体側に生えている太いトゲが他の魚に刺さってしまうことから、漁師からも嫌われていることが多いという、ちょっと気の毒な魚です。

釣魚としても食材としても上等

しかし、どれだけデメリットがあっても、味が良ければ評価するのが魚好きの我ら日本人。実際、中部地方などでは鮮魚店にこのギマが並ぶ地域も多く、美味しい魚として評価されています。

この顔からも分かる通り、ギマは美味で知られるカワハギと近い仲間。淡白ながら濃厚な味わいもある身は薄造りで美味しく、また加熱するとふわっとほぐれる身は煮付けにもよく合います。

そして忘れてはいけないのが肝。カワハギの仲間らしくとても大きく、こってりとして濃厚さがあり、とても美味です。この肝を醤油に溶き、薄造りにした身を絡めて食べるとまさに絶品。

身近だけど知名度が低い「銀馬」ってなんの魚? 肝はカワハギ級で美味大きく肥大した初夏のギマの肝(提供:野食ハンマープライス)

カワハギの肝が肥大するのは冬なのに対し、このギマは初夏も旬の一つで美味しく食べることができます。そのためもっと注目をされてもいいと思うのですが、ヌメリやトゲ、そして親しみのなさのために嫌われているのはとても残念なことです。

なおこのギマ、前述の通り力が強いので釣って楽しく、一方でおちょぼ口のためにハリにかけるのにテクニックが必要となり、狙って釣るのも面白い魚です。浜名湖など専門に狙う地域もあり、専用の仕掛けが売られるなど親しまれています。

東京湾や大阪湾など身近な内湾にも数の多い魚。魚屋で見かけることはあまりないかも知れませんが、釣りで出会えたときはぜひそのヌメリに怯むことなく持ち帰って食べてみてください。「こんな魚を食べないなんてもったいない!」と心から思えるはずです。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>