沖縄食材の中でもトップクラスの知名度をもつ「海ぶどう」。暖かい海でしか育たない海藻ですが、現在なんと瀬戸内海でも養殖されているといいます。
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「海ぶどう」は「クビレズタ」
近年、沖縄食の人気向上に伴い、都心でも気軽に沖縄の食材を購入できるようになりました。青パパイヤや島豆腐など、一般的なスーパーでも売られるようになっているものも今では少なくありません。
そして、その中でも最も有名な食材のひとつが「海ぶどう」。これは正式名称「クビレズタ」という海藻で、小さなブドウのような見た目をしており、噛むと口の中でプチプチと潰れる触感が楽しい人気食材です。
このクビレズタ、日本は南西諸島にのみ棲息しているのですが、近年の人気もたたって乱獲が進んでいるといいます。暖かい海域にしか棲息できないにも関わらず、サンゴ礁では育ちにくいという特徴もあり、今では国産の天然物は激減してしまったと言われています。
そのため、奄美大島を中心に養殖が行われているほか、最近はフィリピンからの輸入も多くなっています。クビレズタの生育には平均22度の水温が必要となり、日本では当然「南西諸島でしか養殖できないもの」だと考えられてきました。
瀬戸内で海ぶどうを養殖?
しかし、その「常識」を覆した漁協があります。
瀬戸内海に面する広島県竹原市。ここに所在する「芸南漁業協同組合」では、速い潮にもまれて美味しく成長するタイやタコの漁が盛んです。しかし近年、全国の港町の例に漏れず、当漁協でも漁業者の高齢化や漁獲量減少による赤字に苦しんでいました。
そんな折、漁協組合長が漁業関係のイベントで訪れた沖縄で、クビレズタの養殖場を見学する機会があったそうです。沖縄では通年を通して養殖が行われ、30日程度という短期間で出荷できる、という話を聞き「うちの漁協でもやってみようか」という話になったといいます。高齢の漁協組合員でも実施可能な事業であることや、近くの海に、クビレズタと見た目の似た海藻があったということも、導入の後押しになったそうです。
養殖環境作りに苦戦
しかし、内湾である瀬戸内海は、冬になると海水温が15℃を下回ることもあります。そのためクビレズタの生育に適した環境を作り出すことは難航し、ときに苗を全滅させてしまうような失敗も経験したそうです。
さまざまな試行錯誤が続けられた結果、最終的に「ボイラーで温めた海水を、組み上げた海水と混ぜる」などの方法で水温・水質管理に成功し、養殖開始にこぎつけました。今では沖縄と同様「23℃前後に水温を調整した水槽に網を張り、その上でクビレズタを生育させる」という手法で養殖が行われているそうです。
地域活性化の材料にも
2019年から本格的な出荷が始まっている竹原産「海ぶどう」。昨年1年では約120kgのクビレズタが出荷されましたが、軌道に乗った今年は約650kgほどの出荷を目指しているといいます。現在では物珍しさも手伝い、徐々に知名度が上がり、それに伴って地元飲食店での提供も始まっているそうです。店頭購入も可能で、1パック50gで470円ほど。市内の「道の駅たけはら」や、おとなり三原市内でも購入できるそうです。
うさぎの島として知られる大久野島や、竹原町並み保存地区といった観光名所が豊富な竹原市。この「地場産海ぶどう」は、それらに加わる新たな観光商材として期待されています。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>