漁師の大敵は『絶滅危惧種』? 一筋縄にはいかない保護と漁業の両立

漁師の大敵は『絶滅危惧種』? 一筋縄にはいかない保護と漁業の両立

我々が普段食べている魚介類は、多くの海洋生物にとってもまた大事な食料。そのため漁業においては野生動物とのトラブルはつきものですが、その相手が絶滅危惧動物である場合の話は簡単ではありません。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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その他 サカナ研究所

石垣島でサメの駆除が実施

沖縄県の石垣島で先日、漁師などによる「サメの駆除」が実施され、地域ニュースとなっています。

この駆除は現地漁業の有志などにより毎年実施されているもの。今年は10月3日、4日の2日間にわたり、八重山漁協所属の漁船24隻が繰り出して、石垣島や波照間島の近海で計115匹のサメを駆除しました。

漁師の大敵は『絶滅危惧種』? 一筋縄にはいかない保護と漁業の両立魚に襲いかかるホホジロザメ(提供:PhotoAC)

駆除されたサメ個体のなかには、重さ550kg、体長も4mを超える怪物サイズのものもいたそうで、フォークリフトで陸上げされる様子を見物する島民からは驚きの声が漏れたといいます。

駆除されたサメの肉は食用に、皮は財布などに加工され有効活用されるそうです。

大型サメ保護の動きも

さて、実は現在、世界的に「大型のサメ」が数を減らしています。フカヒレの原料として乱獲されたり、漁業者による駆除が行われることがその原因の一つと考えられており、我が国ではあまりそのような機運はないものの、世界的には大型サメ類の多くを絶滅危惧種に指定し保護が行われています。

漁師の大敵は『絶滅危惧種』? 一筋縄にはいかない保護と漁業の両立「海のギャング」は絶滅危惧種(提供:PhotoAC)

そのことから考えれば上記のサメ駆除活動については非難の声が上がる可能性もあるのですが、しかし一方で沖縄県内での「サメによる漁業被害」は非常に深刻なものとなっている現状もあります。

これは、漁師が釣り上げた魚をサメが横取りしたり、漁具を壊したりするといったもので、100匹以上をまとめて駆除しても2~3か月経つとまた被害が発生するほどなのだそう。この状況は毎年繰り返されており、漁業者は今後も続けていくことに意義があると語っています。

絶滅危惧種だけど害魚(獣)

このような「漁業被害をもたらす絶滅危惧動物」の例は他にもあります。

例えば同じ沖縄の久米島では、絶滅危惧種のアオウミガメによる漁業被害がつい先日問題になったばかり。アオウミガメは世界的に保護が行われ、国際的な取引を禁止するワシントン条約にも指定されている動物なのですが、久米島周辺ではかなりの数が生息しています。

彼らは高価な漁網を破壊したり、養殖している海藻を食害してしまったりといった形で現地の漁業に大きな被害をもたらしています。そのため漁師が無断で駆除を行ってしまい、大きな問題となってしまったのです。

漁師の大敵は『絶滅危惧種』? 一筋縄にはいかない保護と漁業の両立アオウミガメ(提供:PhotoAC)

貴重なカメが数十匹も傷つけられる事態にショックを覚えた人も多かったようですが、漁師の生活のためには駆除もやむを得なかったのではないかと養護する声も少なくありません。

ラッコによる被害も

また北に目を向けると、北海道周囲の海ではやはり絶滅危惧種であるラッコによるウニの漁業被害が、年間数億円規模にも上っています。ラッコは世界的に保護されている動物で我が国も倣っており、どれだけ漁業被害が出ても駆除を行えないため現地の漁師にとって憎むべき大敵となっています。

このように、世界的な潮流も踏まえて絶滅危惧動物の保護を訴える人々と、いま目の前でその動物による被害が発生し続けている漁業者など現場との間には、容易に埋まらない深い溝が存在します。当該生物の生息数を正確に把握し種の保全に危険が出ない形で保護を行うなど、より柔軟な方法で対策を行っていく必要があるのではないかと感じます。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>