ニホンウナギは3000kmを移動 目的地への指針は「太陽」だった?

ニホンウナギは3000kmを移動 目的地への指針は「太陽」だった?

日本のはるか南の海で産卵を行うことが知られているニホンウナギ。彼らがどのようにしてそんなに遠くの目的地にたどり着いているのかは長らく謎のままでしたが、どうやら昔の船乗りのように「太陽」を指針としていたようです。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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その他 サカナ研究所

ウナギは3000km移動する?

我々日本人に最も愛され、馴染みの深い魚といえるもののひとつ・ウナギ。日本に生息するニホンウナギは、身近な河川にも当たり前に生息している魚ながら、産卵行動や卵については長い間見つかっておらず、その生活環は謎に包まれていました。

しかし2006年に、日本から直線距離で2000km以上も南にある海底火山「スルガ海山」周辺のマリアナ海溝で行われた調査において、孵化したての仔魚が多数見つかり、産卵場所が発覚しました。日本でも著名なリゾート地「グアム島」の北西部に当たり、仮に飛行機で向かったとしても数時間はかかる距離です。

ニホンウナギは3000kmを移動 目的地への指針は「太陽」だった?グアム島から泳いでくる!?(提供:PhotoAC)

さらに調査が行われ、ニホンウナギの産卵は深い海の中層200mほどの場所で行われること、30時間ほどかけて160m付近まで上昇しながら孵化すること、そして彼らは海流に流されつつも、そこから3000km以上も泳いで日本の河川までやってくるということがわかってきました。しかしそもそもなぜそんなにも遠くで産卵を行うのか、はっきりしたことはわかっていません。

太陽を見て泳ぐ

稚魚がどうやって日本まで泳いでくるかだけでなく、ニホンウナギの成体がどのようにして日本から産卵場所とされるマリアナ海域まで遊泳しているのかについても、ながらく謎とされてきました。

渡り鳥などの長距離を移動する生物と同様に「地磁気」を活用しているのではないか、という説もあった中、このたび国立研究開発法人水産研究・教育機構によって新たな知見が発表され、話題となりました。それによると、ニホンウナギは「太陽の軌道」を一つの手がかりとして遊泳方向を決めている可能性があるのだといいます。

ニホンウナギは3000kmを移動 目的地への指針は「太陽」だった?ウナギは太陽を見て泳いでいる(提供:PhotoAC)

調査では、超音波発信器を装着したニホンウナギ成魚を、日本近海やマリアナ海域内の南側などで放流し追跡しました。すると、冬場に日本近海で放流した個体は海流で北東方向に流されながらも、個体の意志としては南に向かって遊泳しました。一方、夏場に目的地であるマリアナ海域内の南側で放流したものは、北方向へ向かって遊泳しました。

日本近海では一年を通し、太陽は見かけ上東の地平から南の空に上る軌道を描きますが(南中)、北回帰線の南にあるマリアナ海域ではウナギが回遊する時期には太陽は北の空に昇る軌道を描きます(北中)。そのため、ウナギたちはこのような太陽の軌道を見て、自らの回遊方向を決めていると見られるといいます。(『ニホンウナギ大回遊の謎の解明に向けて大きく前進』国立研究開発法人水産研究・教育機構 2022.3.2)

ニホンウナギの研究

今回の実験のように、ニホンウナギの研究は日本のはるか沖であるマリアナ海域で調査を行う必要のある、非常に大変なものです。それでも行うのは一体なぜでしょうか。

ご存じの方も多いと思いますが、ニホンウナギは日本の食卓になくてはならない食材である一方、長年の乱獲により絶滅危惧種に指定されている存在です。そのため、資源量を増やすための研究が各方面で進められています。

ニホンウナギは3000kmを移動 目的地への指針は「太陽」だった?美味しいウナギを食べ続けていけるように(提供:PhotoAC)

今回のような調査で、ウナギの産卵回遊行動についてのデータが蓄積されれば、例えば有益な生息・産卵場所を優先的に保全したり、繁殖が期待できる放流種苗の育成や放流の手法を開発できる可能性が高まります。

それがひいては「産卵する親魚を増やす」ことに繋がり、結果として資源量回復に貢献することができるのです。今後の調査にも期待が高まりますね。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>