福島第一原発の「処理水」でヒラメ飼育実験を実施 風評対策の一環に?

福島第一原発の「処理水」でヒラメ飼育実験を実施 風評対策の一環に?

海洋への放出開始を2年後に控えた福島第一原発の処理水。この度東京電力が、この処理水を用いた「養殖実験」を行うことを発表しました。

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その他 サカナ研究所

処理水を用いたヒラメ飼育

福島第一原発の廃炉をすすめる東京電力が、この度「福島第一原発で発生した処理水の中で魚を育てる」飼育試験を行うことを明らかにしました。

試験ではまず、今年の秋頃から、原発周辺の海水を用いて、水槽内で魚の飼育を行います。そして来年夏頃からは、処理水をその海水で薄め、その中でも飼育していきます。

福島第一原発の「処理水」でヒラメ飼育実験を実施 風評対策の一環に?飼育されるのはヒラメ(提供:PhotoAC)

試験では加えて、飼育した魚について体内の放射性物質濃度や成魚の生存率、卵のふ化率などを調べるといいます。

試験に使う魚は、もともと福島第一原発周辺海域の主要漁獲物である「ヒラメ」を想定しているといいますが、その他に貝類や海藻の飼育も行うことを検討しています。(『処理水薄めてヒラメ飼育 東電、安全性確認のため試験へ』河北新報 2021.7.30)

海洋放出を見据えている?

各所で報道されている通り、日本政府は2023年春より福島第一原発の処理水を海洋放出することを決定しています。今回の飼育試験は、この処理水放出に伴い発生すると見られる、福島周辺海域の海産物への「風評被害」を軽減するのが目的で実施されます。

福島第一原発の「処理水」でヒラメ飼育実験を実施 風評対策の一環に?処理水は再来年から海洋に放出(提供:PhotoAC)

この飼育試験に使う水に含まれる放射性物質トリチウムの濃度は、海洋放出可能な処理水の基準である1L当たり1500Bq未満に保たれます。2022年夏からは、飼育している水槽の様子をインターネット中継で伝えるなどしながら、風評の払拭に努めていきます。

処理水の海洋放出開始後は、処理水が放出された周辺の海水で引き続き飼育試験を行う予定だといいます。東京電力は「数値で説明するだけでなく目でみて安全だと示す手段としたい」とコメントしているそうです。

風評被害は避けられるのか

原発の処理水は、様々な放射性物質を含む汚染水を特殊な装置で浄化し、現在の技術では除去できないトリチウム以外を排出基準未満まで減らしたものです。海洋放出後は海水で十分に薄められるため、魚介類への影響は出ないとされています。

しかし処理水を海洋放出する政府方針を巡っては、海外で懸念や反発の声が相次いでいます。いくつかの国では福島県産食品への輸入規制措置が事故後10年にわたって続いており、今回の放出決定によってさらなる状況の悪化が起こるのではないかと懸念されています。

福島第一原発の「処理水」でヒラメ飼育実験を実施 風評対策の一環に?海で薄まれば安全とされるが……(提供:PhotoAC)

一方、この問題に関しては海外でもややヒステリックな反応になっている状況があり、ときに浄化前の「汚染水」と処理水が混同されているなど錯綜した情報が伝わってしまっている例もあります。

このことから、特に海外へ向けて、処理水に関する正しい情報を発信していく必要が叫ばれており、今回の飼育試験はその一環となるものなのです。風評被害を防いでいくためには、この試験で得られたデータをしっかり考察し、偽りない結果を高い透明性のもと公開していくのが大事でしょう。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>