磯遊びの人気者『アメフラシ』は珍味だった? 毒性を持つ個体も

磯遊びの人気者『アメフラシ』は珍味だった? 毒性を持つ個体も

磯遊びでは人気者でも、それ以外ではまったく関わり合いのない生き物であるアメフラシ。しかし、じつは食用にする地域があります。

(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)

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その他 サカナ研究所

磯遊びの主役『アメフラシ』

夏の日差しが強まるころ、楽しくなるのが磯遊び。潮が大きく引く日、潮溜まり(タイドプール)に残された生き物たちの観察や採取をするのはとてもおもしろいレクリエーションです。

磯には色々な生き物がいますが、その中でも特に人気があるのがアメフラシ。紫色でどろんとしており、突くと紫色の汁を噴出するものの毒はなく、危険性はまったくありません。子供の遊び相手としても最適です。

磯遊びの人気者『アメフラシ』は珍味だった? 毒性を持つ個体も存在感がすごい(提供:PhoteAC)

そのユーモラスな見た目から様々な地方名があり、頭部の牛の角に似た突起からつけられた「べこ」「磯牛」のほか、「磯鼠」と呼ばれることもあるそうです。(『アメフラシ』ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑)中国では「海兎」、いずれも動物に例えているのが面白いですね。

アメフラシとは何者か

このアメフラシ、こう見えて実は貝類に近い存在です。軟体動物の無盾目というグループに属する生物で、ウミウシやクリオネに比較的近い仲間ですが、彼らと大きく違うのは殻をもつこと。しかしこの殻は完全に体内に隠れており、実際に触れないとその存在には気づきません。

軟体動物としてはかなり大型の部類で、海外には全長70cmにも至る種がいるそうです。日本のアメフラシもときに30cmを超え、重さは1kgを軽く超えます。しかし性質は穏やかで、海藻や藻を食べて暮らす完全な草食性です。

磯遊びの人気者『アメフラシ』は珍味だった? 毒性を持つ個体も卵嚢も特徴的(提供:PhoteAC)

刺激を受けると、紫汁腺とよばれる器官から紫色の汁を噴出します。これは敵に対する毒の警告や、煙幕の意味合いがあると考えられています。多くの人にとってはあまり関わり合いのない生き物ですが、海底でのんびりしているときによく釣り針が引っかかってしまうようで、釣り人にとっては面倒な「外道」の一つになっています。

アメフラシは食べられる

そんなアメフラシですが、大型の軟体動物、しかも浅いところに棲息し捕獲も容易であることを考えれば、利用しようと考えるのは自然かもしれません。実際にアメフラシを食用とする地域はあり、千葉県外房や島根県など全国に食用文化が散在しています。(『アメフラシ』ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑)

調理法はあまりバラエティがあるわけではないようで、基本的には一旦下茹でしたものをよく洗い、煮付けや酢味噌和えで食べられるとのこと。筆者も以前一度自分で捕獲して食べてみたことがあるのですが、味自体はあまりなく、やや海藻臭さがあるものの、歯ごたえがしっかりとしていて意外に美味だと感じました。

磯遊びの人気者『アメフラシ』は珍味だった? 毒性を持つ個体も醤油で煮ても美味しい(提供:野食ハンマープライス)

初夏から梅雨時にかけては産卵を行うのですが、細い麺状をした卵は「海素麺」と言われ、これも食用にされることがあるそうです。

捕獲自体は難しくないので、ぜひ皆様も試してみて……と申し上げたいのですが、様々な海藻を食べるアメフラシはときに軽い毒性を持つことがあり、普段食用にされない地域でむやみに食べることはあまり勧められません。食べてみたければ、上記のような食文化のある地域を訪れるのが無難でしょう。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>