釣りエサでもあり食材でもある『アナジャコ』の不思議な捕まえ方

釣りエサでもあり食材でもある『アナジャコ』の不思議な捕まえ方

干潟には様々な生き物が棲息していますが、その中でもかなりユニークなもののひとつがアナジャコ。意外と身近なところに棲息する彼らは、捕まえてよし食べてよしの素晴らしいターゲットです。

(アイキャッチ画像提供:野食ハンマープライス)

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その他 サカナ研究所

内湾の干潟に穴が空いていたら

初夏から夏にかけ、河川が大量に流入する浅い内湾の海底に、たくさんの穴が空いているのが見られることがあります。大きいものは直径2.5cm(500円玉くらいの大きさ)に至り、カニや貝の巣穴とは明らかに雰囲気が異なっています。

釣りエサでもあり食材でもある『アナジャコ』の不思議な捕まえ方干潟の風景(提供:野食ハンマープライス)

潮が引いて海底が露出すると、これらの穴はほとんど見えなくなります。しかし、表面を少し掘ると、穴がポコポコと顔を出します。潮の満ち引きに合わせて海水が噴出し、まるですべてが地中で繋がっているかのように思えることもあります。

棒などを差し入れてみても底に届くことがなく、かなり深いことがわかります。時々ハゼなどが巣穴に使っていることもあるようですが、一体この穴の主は何者なのでしょうか。

穴の主は「アナジャコ」

実はこれは「アナジャコ」という生き物の巣穴です。彼らは干潟に1~3mほどもある深い竪穴を掘り、その中で暮らしています。

釣りエサでもあり食材でもある『アナジャコ』の不思議な捕まえ方上半身はエビ、下半身はシャコ(提供:野食ハンマープライス)

アナジャコは「シャコ」と付きますが、シャコのようなカマキリ様のカマではなく、ハサミのような爪を持っています。そのため見た目はエビとシャコの中間といった感じですが、実際は「アナジャコ下目アナジャコ科」という独立したグループに含まれ、エビともシャコとも違う不思議な生き物です。

鋭い爪を持っているため、性質は獰猛そうに見えますが、実際は巣穴から出ることはほとんどなく、泥に含まれる有機物を食べるおとなしい生物です。最大で全長15cm程度になりますが、大きくなっても殻が柔らかく、巣穴の外に出てしまうとあっという間に他の生物の餌食になってしまいます。

アナジャコは「筆」で捕まえる

アナジャコの巣穴は非常に深く、動きも素早いので普通に掘り出そうとしてもうまくいきません。そのため、捕まえるときはとある「特殊な」道具を使用します。

その道具とはズバリ「筆」。どこの文房具屋にも売られている、習字用の太筆を使って捕まえることができるのです。アナジャコは、巣穴に異物が入り込むと外に追い出そうとする性質があります。巣穴の中に筆を差し込み、ピストンして水流を送り込むと、巣の奥にいるアナジャコが異物を察知して上がってきます。

釣りエサでもあり食材でもある『アナジャコ』の不思議な捕まえ方干潟に筆を差し込む異様な風景(提供:野食ハンマープライス)

非常に臆病な性格をしている彼らですが、筆の柔らかさは警戒心を刺激しないようで、果敢に攻撃し、押し出そうとします。彼らが入り口まで上がってきたところをギュッと抑え込み、引き出せば一丁あがり。簡単そうですが、筆を押し込む・引き出すなどの駆け引きが面白く、一度やるとハマってしまうほど楽しいです。

釣りエサとしてのアナジャコ

このようにして捕まえたアナジャコは、様々な形で利用されています。最も有名なのは「釣りエサ」としての利用。釣り業界ではアナジャコは「カメジャコ」と呼ばれ、タイやスズキなどの大型高級魚が釣れる餌として高い人気を誇っています。

また地域によってはウナギの特餌としても知られ、釣り人自らが捕獲しているところもよく見かけます。川を遡らず、河口でアナジャコや貝を食べて暮らすウナギは「ガニクイ」と呼ばれ、味が良いと言われています。

食材としてのアナジャコ

またこのアナジャコ、人間が食べても美味しく、瀬戸内海沿岸や有明海沿岸では鮮魚店で販売されています。岡山では特に根強い人気があり、料亭でも使用されるほど。殻が柔らかくまるごと天ぷらにして楽しめるほか、茹でて殻を剥けばシャコ同様に用いることができます。

釣りエサでもあり食材でもある『アナジャコ』の不思議な捕まえ方加熱すると赤くなる(提供:野食ハンマープライス)

捕まえて楽しく、食べても美味しいアナジャコは、東京湾など身近な内湾にも棲息しています。アナジャコ採りには特別な道具も不要で、危険もないため老若男女誰にもオススメできます。捕獲にコツが必要で、はじめの1匹を捕まえるまでには少しかかるかも知れませんが、とても楽しいのでぜひ気軽にトライしてみてください。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>