見た目はとても美しいけど「意外すぎる」生態を持つ『ウミウシ』の不思議

見た目はとても美しいけど「意外すぎる」生態を持つ『ウミウシ』の不思議

皆さんは『ウミウシ』という生物をご存じですか?「海の宝石」と呼ばれるほど美しく、ちょっと変わった生態を持つこのウミウシについて調べてみました。

(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)

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その他 サカナ研究所

ウミウシはサザエの仲間?

突然ですが、ウミウシはどんな生き物の仲間だと思いますか?

まずは3つの選択肢から想像してみて下さい。

(1)サザエ (2)ナマコ (3)タコ

見た目も似ているし、(2)のナマコと思った方、残念!

ナマコは棘皮動物門(きょくひどうぶつもん)というグループに属しており、ウニやヒトデの仲間です。

じゃあ(3)のタコ!

残念。こちらも不正解です。

タコとウミウシは同じく軟体動物門ですが、タコは頭足綱(とうそくこう)、ウミウシは腹足綱(ふくそくこう)に属しています。

ナマコに比べれば確かに近いように思えますが、実は3つの中で一番近い生き物は、見た目が全然違うサザエで、同じく軟体動物腹足綱に属しています。

この他にも軟体動物門腹足綱にはアワビやナメクジなども属しています。

中でも巻貝の仲間でありながら殻を退化させたナメクジはかなり近い存在のため、ウミウシは海のナメクジと思っていただいても問題ないでしょう。(より細かく見れば別種です)

ウミウシは種類が豊富 

ウミウシは非常に種類が多く、日本国内でも1000種類以上が確認されています。

生息域や食性も種によって大きく異なり、世界的に見れば未発見なものまで含めると5000種類以上にもなると言われています。

見た目はとても美しいけど「意外すぎる」生態を持つ『ウミウシ』の不思議こんな柄も(出典:PhotoAC)

アメフラシに勘違いされがち

ウミウシと勘違いされている生き物にアメフラシという生き物がいます。

15㎝くらいの茶色をした生き物で、日本では干潮の時に磯遊びなどで見ることができます。

ウミウシとアメフラシは混同されがちですが、生物学的に見れば近縁種ではありますが、別の生き物です。

大きな違いは食性にあり、アメフラシは海藻を食べる草食に対し、ウミウシは種によっては肉食だったり、雑食だったりします。

もし海でアメフラシを見かけても、ウミウシとは呼ばないようにしてあげてください。

見た目はとても美しいけど「意外すぎる」生態を持つ『ウミウシ』の不思議アメフラシ(出典:PhotoAC)

毒を食べて毒を持つようになる?

ウミウシを見たことがある人は想像がつくかもしれませんが、非常に派手でカラフルな色をしています。

赤、青、緑、黄色、ピンクなどのビビットカラーで美しいことから「海の宝石」と表現されることもあり、最近では写真集などが販売されて少しずつ認知度を高めています。

しかし、美しい花には棘があると言うように、美しいウミウシには毒があるため要注意です。

派手な生き物は毒を持っているものが多いです。例えば毒のイメージが強いヘビやカエルは、色が派手なものほど持っている毒が強い傾向があります。その毒は非常に強力で1滴で簡単に人が殺せるほどです。

ウミウシの毒はここまで強力ではありませんが、人命にかかわることもあるくらいには有毒なため、見付けても素手では触ってはいけません。

見た目はとても美しいけど「意外すぎる」生態を持つ『ウミウシ』の不思議派手なウミウシには毒があるかも?(出典:PhotoAC)

毒の作り方

ウミウシには毒があるとお伝えしましたが、彼らはもともと毒を持っているのではなく、後発的に有毒になっていきます。

これには彼らの食性が大きく関わっています。

一部のウミウシの中にはクラゲなどの刺胞動物(しほうどうぶつ)を好んで捕食する者がいます。

クラゲなどの刺胞動物は刺胞と呼ばれる毒の入ったカプセルを持っており、これを相手に埋め込むことで毒を与えます。ウミウシは刺胞動物を捕食する際、この刺胞をため込み、自分の毒としています。

これを【盗刺胞】と言います。

葉緑体も盗む

これと同じように草食のウミウシは、食べた海藻から光合成に必要な葉緑体を自分のものとするものがいます。

これを【盗葉緑体】といいます。

ウミウシは人間のようにむしゃむしゃと食べるわけではなく、海藻の細胞壁に穴をあけ、そこから海藻の細胞質をチューっと吸って食べます。そうすることで葉緑体もキレイに取り込むことができるのです。食べられた海藻は細胞壁だけが残されて透明な文字通りの“抜け殻”になります。

そして、取り込まれた葉緑体は数日から数ヵ月のあいだウミウシの中で機能を保ち続け、生み出されたエネルギーはもちろんウミウシのものとなります。

水族館であまり見かけない理由

ウミウシが見れる場所として真っ先に思い浮かぶのは水族館かもしれませんが、実は水族館でも展示している施設は多くはありません。

もっと詳しく言うと、企画展や特別展として展示されていることはあっても、常設展示されている施設はあまり多くはありません。

これは彼らの食性などが大きく関わっています。

同じ種類のウミウシであっても、採取された場所が違うだけで好みのエサが異なっていることがあり、安定して飼育できないなどの理由が大きな要因と言われています。

磯で見かけても触れないで

まだまだ未知な生態が多いウミウシを観察できる機会は非常に少ないです。

そのため、磯などで見かけた場合、手に取ってしまいたくなるかもしれませんが、そこは気持ちをぐっと我慢した方がいいでしょう。

前述のとおり、ウミウシの中には非常に強力な毒を持っているものもいます。

うかつに手を出すと取り返しのつかないことも考えられますので、見るだけにしておいた方がベターです。

「意外だらけ」な生き物

ウミウシは生き物の中でも意外で特殊な生態を多くもつ生き物と言えるでしょう。

巻貝の仲間なのに貝殻が無かったり、他の生き物から毒や葉緑体を盗むこともできます。

他にもナメクジと同じように、ケガをして体の一部が欠損しても再生させる能力を身に着けているものもいます。

まだまだ未知な部分が多いウミウシの今後に注目です!

見た目はとても美しいけど「意外すぎる」生態を持つ『ウミウシ』の不思議非常に美しいウミウシ(出典:PhotoAC)

<近藤 俊/サカナ研究所>